子供の夢

作:夢希

一.幸せな夢

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ゆめ 【夢】

(1)睡眠時に現れる幻覚。
(2)実現させたいと心の中に思い描いている願望。
(3)実現する当てのない空想。
(帝国の国語第三版・[夢]より抜粋)

「疲れた。自由に本を読める時間だと思ってたけど案外きついぞ。
次は出来れば新幹線にしたいな」
そう呟くとロータリーとは名ばかりの駅前の小さな広場で俺は担いでいた荷物を降ろした。
もう3時を過ぎているというのに夏の太陽はまだまだまぶしい。

 大学のある帝都から各停に揺られ続けて四時間、さすがに全身がこっている。
俺は柳沢晶。現在は念願だった帝都大の大学生。入ったばかりの1年生だ。
今はお盆も過ぎた夏の終わり。
これまで大学の授業やバイトが上手い具合に重なっていたため休みが取れず、今回が大学に入って初めての帰省となる。
もちろん夏休みの間は地元でバイトするという選択肢もあったが、帝都の方がはるかに時給が良い。
だが、もちろんそんなものは親への言い訳でしかなく、帰らない理由は他にもあった。
帰ったとしても別に会いたい人がいないから。
中学・高校と帝都の学校に通っていたため、地元であるここ和泉には友人と呼べる奴など一人もいない。
小学生の頃の知り合いなんかとっくに縁が切れている。
実家には小さい頃に良くめんどうを見てくれた2つ上の姉が居るが、中学・高校と帝都に居てはもはや懐かしさも感じない。
そんなわけで中学の頃から帰省の都度、この町には俺の居場所等なく歓迎もされていないのをよく感じていた。
例え近くで祭りがあったとしても、それは遠い村の知らない人たちの祭りのよう。
町の人達の陽気な明るい輪でさえも気軽に入れる空間ではなかった。
同年代の少年たちが青年衆と馬鹿なこと言って笑いこけてる横を俺は下を向いて黙って歩いていた。
『晃じゃねえか、懐かしいな!』そんな展開は夢の中だけ。

 中学・高校と帝都の学校。
そう、俺は帝都大に受かるために死ぬ気で勉強した。
そんなこんなで大学に入るまでほとんど遊んだことなど無かった俺を大学の先輩は
『何で彼女できないんだろなあ?
真面目だが話しててつまらん訳でもなし。素材自体はむしろ良い方なんだがな。
なんにでも一所懸命な性格だって好感持たれる要素のはず……
でも、男の俺が見てもやっぱなんか足んない感じはするんだよな。』
と評し、先輩の彼女は
『晃君は、まだ恋に恋してるって感じね。
理想として求めてる恋愛感があってそれ以外は眼中に無いのよ』
と手厳しい。
でも、彼女の発言は間違っている。
俺が恋に恋しているはずがない。
恋愛全般に興味なぞ無いのだから。
そもそも中学以降ずっと誰かを好きになったことなど無いのだからしょうがない。
そう考えてふと気づく。
中学以降、か。
そういえば小学生の頃には好きなやつがいたな。
どんなやつだっけ。
思い出そうとしているいるうちに親の車が迎えに来て、俺はそれに乗り込んだ。

ブルッ、ブルッ、ブルルウゥッ!

 今回の帰省は実家に帰って親に顔を見せ、近くの水都の友人に会って終わる予定。
近くの友人と言っても彼も中学以降帝都で、知り合ったのも遊んだのも帝都だ。
友人と端末で詳細を決めた後テレビを見て、久しぶりに両親と3人の食事をする。
姉は仕事場の方が忙しいらしく早くは帰って来れないらしい。
そんな姉貴のことを親父はいつも、『せめて短大か専門にでも行っていれば……』とぼやいている。

 食後、風呂から上がると急に睡魔が襲ってきた。
まだ9時を廻ったばかりだが、と時計を見ながら今日の旅程を考えて苦笑する。
電車に揺られて4時間以上読書だったな、きっと想像以上に疲労が蓄積したのだろう。
親に少し疲れたからと言って子供部屋のある2階へ上り、小学生までずっと使ってきたベットに横になろうとした。

 その時、机の上にあるオルゴールが目に付いた。
それが何だかすぐには思い出せなかったが、そもそもここにあるのは小学校時代のものが大半だ。どうせ親が部屋や机を整理した際に出てきたものだろう。
そういえば、要らないものは捨てるから要るものと分けておいて欲しいと言われてたな。
机の上には他にもなんだか懐かしそうな物がたくさん並んでいたが、目は不思議とそのオルゴールへと吸い寄せられる。
オルゴール、と言っても安っぽい感じのちょっとした贈物用のもの。
内部は小物入れのようになっている。贈られる時から中に何か入っていたのだろうな。
ねじを回してみるとぎこちない音楽が流れてくる。パッヘルベルのカノン?
何故だか分からないまま懐かしい思いが胸一杯に広がってきた。
ねじを回せるだけ回してベットの脇に置くと布団の中に入る。
実家に帰ってきた安心感と旅の疲れからか、俺はそのまますぐに眠ってしまった。

外の世界ではオルゴールのカノンが流れ。
そして僕は夢に落ちる。
深い深い、夢の中へ。




 3年

4月5日:

 今日は初めてのクラス替えの日。
話し方が変と言われてよく馬鹿にされる僕ははっきり言ってとても不安。
僕の学校では3年と5年にクラス替えがあるけれど、もう一度こんなのが有るなんて考えるだけでも耐えられない。
クラス替えで親しい友達とはほとんど離れてしまった。
何でこんなのがあるのだろう。
新しいみんなはなんだか怖くてとっつきにくそう。

4月7日:

 よかった、とっつきにくそうなんていうのは僕の思い込みだったみたいだ。
きっとみんなも友達と離れて不安だったからそう感じたのかな。
新しいクラスの子では特に同じ班の女の子3人ときっちゃんと仲良くなった。
3人は汀ちゃんと奈央ちゃんともこちゃん。
もこちゃんはあだなかと思ってたら萌恋って書くんだって言ってた。
幼馴染らしいけれど何をするのも3人一緒なんだ。
見てるだけでこっちまで楽しくなってくる。
きっちゃんはちょっとおとなしい感じの男の子。
席は男の子と女の子が隣になるように決められていて、僕の隣は汀ちゃん。
4人とも僕の話し方にすぐ慣れてくれた。
早口でも、どもっても馬鹿にしない。
それどころか、僕が人からよく馬鹿にされるという話をしたら汀ちゃんは自分じゃどうしようもないことで人を馬鹿にするなんて許せないと怒ってまでくれた。
そんなことを言ってくれるのは、僕をかばってくれるのはお姉ちゃんだけだと思ってた。
嬉しかった。
この4人がいっぺんで好きになった。

4月13日:

 みんなの性格が大体わかってきた。
奈央ちゃんはとにかく元気。
元気すぎてブレーキの利かないこともたびたび。
汀ちゃんは優しくて明るい。
たぶんおてんばの部類に入るのだろうけれど、奈央ちゃんがともすると突っ走ってしまいそのフォローに回ることが多いせいで頼りになる性格と思われている。
もこちゃんはおとなしくて何でも見透かしているような不思議な雰囲気をまとってけれど、実は何も考えてないだけ。
ぽーっとしてるのが好きそうなのにいつも2人の後を追っかけて、いつも訳も分からないまま一緒に怒られている。
リーダーシップを取ってるのは奈央ちゃんだけれど、最終決定権を持ってるのは汀ちゃん、おもりというかなんというかなブレーキもこちゃんと言った感じ。
きっちゃんはおとなしくていつも自分の椅子に座って何かしてる。

5月7日:

 ゴールデンウィーク明け、短い休みが終わって今日からまた学校。
でも、またあの4人に会えると思えば苦にもならない。
それどころか、今は学校が楽しくて仕方が無い。
相変わらずからかってくる子達も多いけれどクラスが変わっても会ってくれる友達やあの4人がいるだけでそんなつまらないこと全てに耐えられる。
それに、あの子達といつも一緒に仲良くしてるからかな?
新しいクラスの子達は誰もからかってはこなかった。

5月12日:

今週の班ごとの仕事は飼育当番。
3年生はウサギとニワトリの世話だ。
僕がニワトリを怖がってると汀ちゃんが
『さっきウサギの世話をしているときは平気でだいてたのに?』
と不思議がっていた。
『ウサギと違ってニワトリは大きくてらんぼうなんだよ。
汀ちゃんもそんなに近よらない方が良いよ』
言い返すと汀ちゃんは笑って捕まえて見せて
『ほら、こんなにかわいいのにね。
キャッ』
最期のキャはニワトリが急に羽ばたいたのに驚いたのだろう。
長くて少し茶色がかった髪、目鼻立ちのくっきりした整った顔、その大きな目を今はぱちくりさせている。
そして、すぐに自分を不幸に出来る存在なんてどこにも無いといった屈託の無い笑顔に戻る。
…ちょっと可愛いかもしれない。
でも、許せないところも有る。
彼女は少し背が高い。
男子の中でも小さい僕にとって、クラスの中くらいでしかない汀ちゃんはそれでも大きい。
同学年で僕より小さい子なんてほとんどいないのだから。今まで自分より背が高い子に対して悔しいと感じたことなんてほとんど無かったけれど、今初めて背の小さいことを悔しく感じた。
そんなことを思いながら汀ちゃんをぼーっと眺めていると、
『汀ちゃんがおどろいてるのを見て笑うなんてちょっとひどいんじゃない!
それに男の子だったら助けてあげようとするのがすじでしょ』
と奈央ちゃんに怒られた。
「違うよ、見とれてただけだよ」
とてもじゃないけど言えなかった。

5月末:

 これまではクラスが変わっても毎日のように一緒に帰っていた2年の頃までの仲間たちと別々に帰るようになっていた。
彼らも別のクラスで新しい友達と仲良くやっている。
2年生の頃は何をするのも一緒だったのに。
たまに僕のことをからかうこともあったけど、一緒に遊んでいて楽しかったので少し寂しい。
でも、まだたまには遊んでる。
今はきっちゃんと帰ることが多い。

6月1日:

 2ヶ月に一度の席替え。
班と席は一緒だから席が変わると班まで変わっちゃう。
今回はきっちゃんと汀ちゃんとは一緒だけど、他の2人とは別になっちゃった。
『でも3人はいっしょのままでよかったね。』
もこちゃんと奈央ちゃんはそう言ってくれた。
代わりに一緒になった2人は余り話したことの無い人。

6月10日:

 汀ちゃんはすごい。
僕たちの班がよそよそしかったのは昨日だけだった。
今日になったらもうずっと前からの友達のように話している。
その中心に居るのは言うまでもなく汀ちゃん。
『いい?
初めは少し聞き取りにくいかもしれないけれど、ようは慣れなのよ慣れ。
晶君だってみんなにわかってほしくて話してるんだから、りかいしてあげないとだめよ。
ほら、晶君も居るんならぼーっとしてないで何か話すの』
……
僕との話し方や聞き取り方まで教えてくれてるみたい。

6月16日:

 きっちゃんが木曜の学校の後に、僕がいつもバスでどこかへ行くのに気付いた。
「放課後の教室」に言っていること。そこは通常学級に通う障害児向けのクラスで町の中心地にある小学校に一つしかないこと、そこでどんなことをやってるかとか、色々なことを話した。
変なの、といわれるかと思ってたのにきっちゃんは行きたそうな顔してた。
変なの。

6月25日:

 きっちゃんも『放課後の教室』に来るらしい。
何もおかしなところは無さそうなのにどうしてだろう?
まあ、これで一人で行くよりは楽しくなるからいいけどね。
今日は言葉の教室きっちゃん初めての日、おばさんも来てた。
おばさんからは
『この子は余り友達作らない子だから。
これからも仲良くしてやってちょうだいね』
と言われた。
確かにきっちゃんはクラス替えの後しばらくたった今でも、僕と女の子3人、前の班以外の人とはあまり話していないみたい。
ここに来るのもなんか関係が有るのかな?
僕ときっちゃんは今日から2人でこの教室に通うようになった。

6月19日:

『晶、あんた最近良く笑うようになったね。
クラスでもみんなの輪の中に入ってるらしいじゃない』
子供部屋で本を読んでるとお姉ちゃんが入ってきてそう言ってきた。
お姉ちゃんは僕より2つ年上で僕と違って何だって出来る、運動だって得意。
それに僕にはすごく優しいんだ。
でも、3年生になってからクラスに来たことは無いはずなのに何で知ってるのだろうと不思議に思ってたら、
『ふふ。
あたしには健太君初め仲良し7人組みたいな晶の友達という情報源があるのよ。
あんたがしっかりやってるかどうかはあいつらに聞けば一発なんだから』
健太君というのは1年からずっと同じクラスの子、高杉君とか他の子も小学校入って以来続く僕の友達。
そもそも、お姉ちゃんは1,2年生の頃の僕の友達全員に顔が利く。
僕がいじめられないように休み時間に僕のクラスまで遊びにきてくれたり、近所の子達には『晶のことよろしくね』と事あるごとに言ってくれてたりしたのだから彼らと親しいのは当然。
3年になっても僕のクラスに顔を出そうか悩んだけれど、僕が楽しそうにしてたから自分は行かない方が僕が馴染めるかなと思って来なかったらしい。
確かに、今のクラスならお姉ちゃんが居なくてもみんなが居るから大丈夫。
隠すことでもないと思って汀ちゃんたちのことを話すことにした。
お姉ちゃんの知らない人と友達になったのは初めてなので少し誇らしい。
『あのね、友達がいっぱい出来たの。
汀ちゃんにもこちゃんに奈央ちゃん、それにきっちゃんだよ。
みんな優しくてすごく面白いんだよ』
とたんにお姉ちゃんは吹き出した。
『みんなって、全員女の子じゃない。
この子、実は結構やるわね』
『違うよ!
きっちゃんは男の子だよ』
『ハイハイ』


毎日が楽しく過ぎて行く。
余り面白くも無いのに、仕方無く付き合っていた友達が減った。
それに呼応するように大好きといえるような友達が増えていく。
周りから僕の話し方に関してからかわれることも少なくなった。
学校に行くのが楽しくて仕方がなくなった。
そしてその楽しい生活の中で大きくなる汀ちゃんへの想い。
そして彼女に見合わない僕をどうにかしなくちゃという焦りのような思いもだんだん大きくなってくる。

ドモリガナオラナカッタラ?
ヒトトオナジジャダメ、プラスガナイト。
ドモリヲウチケスダケノオオキナプラスガ。

サガサナイト。
オトナニナルマエニ。
ナニモナイオトナニナッテシマワナイヨウ。

 4年:

4月5日:

 担任の先生が新しくなった。
今度の先生は面白い。
試験の点数はみんなの前で発表だってさ。
席替えだって早い者勝ちで好きに座っていいってさ。
4年生初めての席替え。
もちろん僕ときっちゃん、そして汀達3人組は同じ班だ。
今回だけじゃない。
これからはずっと5人一緒。

4月10日:

『晶、今日いきなりあんたくらいの女の子に晶君のお姉さんですかって聞かれたけれど知り合い?
髪が茶色っぽくて長くってストレートでとっても綺麗な子。
背はあんたより少し高めかな?』
『可愛かった?』
『どういう基準よ!
ま、かなり可愛かったわね』
確かに可愛いかを聞いても余り意味は無かった。
ただ、そう言われるとなんとなく嬉しい。
『汀かな。
知ってるよ。なかの良い友達』
途端、お姉ちゃんは上機嫌になって、
『委員会で一緒になったのよ。
その終わりの時にちょっとね。
そう、以前話してた三人娘の汀ちゃんなのね。
ところで。
ただの友達が姉貴のとこまでわざわざ挨拶に来るかね?
それに晶が女の子の名前を呼びつけにするのも初めてよね。
まったくもう!
あたしもここまで育ててきた甲斐があったってもんよ』
と言って僕の頭をぐりぐりしてきた。
お姉ちゃんったら急にどうしたんだろ?
わからないけれど妙に恥ずかしい。
下を向いて黙ってされるがままになっていた。


4月11日:

『晶君!
昨日あなたのお姉さんに会ったの。
私の委員会の代表をしてたんだけどかっこよくてとっても綺麗!
これから毎週会えるかと思うととっても楽しみ』
それを聞きながら何か言いたい衝動にかられた。
「汀ちゃんの方が可愛いよ」
絶対に言えない秘密の言葉。

5月中旬:

 最近僕は勉強で急がしい。
テストでよい点を取ると先生が誉めてくれるし、みんなもすごいといってくれる。
運動はどんなに頑張ってもからきしだったけれど、勉強はお姉ちゃんに聞けば何とかなる。
ひょっとして……
ある思いが頭をかすめる。
ひょっとして、僕でも頑張れば頭が良いと言ってもらえるようになれるかもしれない。
馬鹿にされないですむのかもしれない。

7月7日:

 遠足に行った。
僕たちの町は海に近く小学校からは海が見える程だけれど、ここは平地が少なくて海と山とは目と鼻の先。
海の近くに立ってる小学校から30分も歩けばそこはもう山のふもと。
『良いか、気を抜くなよ。
こっからが本番だ。
山道を歩くから先生の言う通りにしない子は怪我したり迷子になっても知らないからな』
こんなところ僕たちの遊び場の範囲内。
ほとんどの子が何度も来てるんだからそんなに脅しても無駄なのに。
それでもこんなに大人数できたことは無いから案の定、みんなは大はしゃぎ。
『この花は蜜吸えるかな』
『あ、ほらこれ!
さわると頭下げておじぎするんだよ』
『オナモミ付けたの誰よ!』
『きゃーっ、変な虫がいっぱい』
そして、
『はい晶君、風船かずら、花言葉知ってる?
持って帰って一緒に植えようね』
『うん、でもこれは赤くないから植えるのはまだ無理だよ。
今度夏休みにでも取っておくね。
でも、風船かずらの花言葉って多忙だよね。
僕にもっと忙しくなれって?』
『ううん、それじゃないの。
そんなマイナーな方の花言葉なんてどうでもいいの。
ていうより、何で花言葉って意味いっぱいあるのかしら。
そもそも晶君は何でそんなに花言葉に詳しいのよ』
なんか汀が悲しそうにつぶやきながら頭を振っている。
……
もちろん、もう一つの方の意味だって知ってるさ。
『ほら、もこちゃんと奈央ちゃんが呼んでるよ。
行こう、汀』
そう言うと汀はたちまち顔を上げた。
『うん!』
その顔はまたいつものように嬉しそうに輝いている。>

 風船かずらのもう一つの花言葉。
「あなたと共に歩きたい」

8月20日:

 子供会ソフトボール大会。
子供会対抗だからもちろんクラスのみんなとは別のチーム。
『おはようございます、晶君のお姉さん。
晶君も久しぶり』
お姉ちゃんと話してたら汀がやってきた。
後ろではもこちゃんと奈央ちゃんがピースサインをしてる。
幼馴染だけあってこの3人は同じ地区だ。
『おはよう、平池さん。
後ろの子達も晶のお友達かしら?
今回は敵同士だけれども、よろしくね』
『はじめまして。
うちのチームと対戦するんじゃない限りめいっぱい応援させてもらいまーす』
『私も出たいんだけど女子はダメって言われて。
うちらが出た方が絶対強いのに。
こうなったら、相手がどこでも晶君のチームを応援させてもらうから!』
そのまま女の子4人で雑談モード、僕はちょっと入りにくい。

 試合は順調に勝ち進んでいく。
うちのピッチャーはとてもすごくて、レフトを守ってる僕のところには球なんて滅多に飛んでこない。
さらに、どうせ取れないと思われてる僕は普通よりかなり後ろを守ってるからたまに来る球もほとんど勢いが無い。
応援しがいの無い選手かもしれない。
それでもお姉ちゃんと3人組は後から来たお姉ちゃんの友達と5人で話しながら僕たちの試合をずっと見ててくれた。
そして、僕最大の見せ場!
大きなフライが僕めがけて飛んでくる。
普通の守備ならホームランかもしれないがはるか遠くを守備する僕にとってはただのフライ。
横に走って取ると大きな歓声が上がった。
すごく嬉しい。
でも、今まで5人の居た場所に汀たちの姿はもう無くて、お姉ちゃんが一人嬉しそうに拍手をしているだけだった。
ちぇっ。

> 結果は優勝。
お姉ちゃんと汀たちはすごい喜んでくれたけど、実際には僕はほとんど役に立っていない。
やっぱり運動はダメだな。

10月4日:

 今日はマラソン大会。
自慢じゃないけど大会と名のつくもので上位に入った記憶は一度も無い。
今回だって4年生総勢132名、汀30位、もこちゃん80位、奈央ちゃん16位、きっちゃん118位、そして僕は64位。
あれ、いつもより良い?
いつもはきっちゃんとそう変わらないのに。

12月上旬:

 最近学校が終わってからの帰り道の一つに、汀達3人組の家経由という新しい道が出来た。
毎日の通学路からは大きく離れていて学校からは禁止されているんだけれども、それを破るというのがまた楽しい。

2月17日:

 奈央ちゃんが肺炎にかかった!
少しだけらしいけれど入院するらしい、大変。
仲間の誰かが休んだだけでみんな元気がなくなるのに、入院と聞いて全員すごく落ち込んでる。
もちろん僕だって不安だ。
『今度みんなでお見舞いに行こ。
大丈夫だよ。
お見舞いに行ったら元気になるよ』

2月21日:

 お見舞いに行ったら、奈央ちゃんは結構元気だったのでほっとした。
病室にはちょうどおばさんも来ていて
『あら、汀ちゃんにもこちゃんいらっしゃい。
奈央のお見舞いにきてくれたのね、ありがとう。
奈央ったらこの性格でしょう、元気ですっかり暇を持て余しちゃっててね。
学校にももうすぐ行けるようになるわよ。
あら、そちらのお2人は?』
『同じクラスの柳沢君と豊島君。
いつも話してる晶君ときっちゃんよ』
奈央ちゃんが僕たちを紹介すると、
『ああ、あの子達ね。
奈央から良く聞いてるわ、よろしくね』
おばさんは面白い人で話が弾む。
『うちの子ったらおてんば過ぎて将来どうなるかってね。
いっつも心配してたところなの。
これまではやんちゃ坊主とばかり遊んでたから2人みたいな行儀の良さそうな子達が友達になってくれて安心したわ』
おとなしいってことかな?
おばさんは続ける。
『どっちかこの子貰ってやってくれないもんかしらね?
どう、顔だけは私に似てかわいいと思わない?』
僕はただ笑ってごまかす。
きっちゃんは真っ赤になったけれども奈央ちゃんはただ笑っているだけだった。
きっちゃん頑張れ!
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