翌朝参内すると皇帝陛下が中央に居られて両脇に尚書令・枢密使の両方が控えていた。 他にも警備の兵始め人はたくさんいたが高官は彼らだけのようだ。 僕が拱手し、御前での一連の作法を終えたところで陛下は気軽な口調で話しかけてくる。 「おお、紅狼ではないか久しいな。 この前の科挙の時以来だ、待ちわびておったぞ。 ところでどうだ、もう嫁の候補は出来たか? どうせまだであろう。 まったく、一甲にて受かれば嫁の成り手くらい山ほどいるであろうに身持ちの堅い男よ。 どうだ? 朕のところに良い娘が居るぞ。 あれから朕がそちのことを考えて選びぬいた娘だ。 あれならそなたも充分に満足すると思うのだがな」 この皇帝、比較的公正で確かな政治力とかなり評判は良いが一つだけ困った癖がある。 齢25にして大の世話焼きなのだ。 皇帝の守備範囲は広い。 自分の友人や宮廷を出る女中から、果ては謁見にきたものや一般官吏にまで幅広く及ぶ。 ところで科挙には静議と呼ばれる調査書があり、その中には当人の家族構成から様々な私生活までが書かれこれが判定される。 つまり皇帝陛下は受験者の中から気になる人を見つけた場合、その人の静議を見るだけで大抵のことは分かってしまうのだ。 結婚しているかはもちろん、恋人がいるかどうかまで。 そして最終試験は皇帝陛下の前で行われ皇帝自身が判定に直接関わるが、その時点になると最早受験者はかなりの高齢か陛下が名前を知っているようなそれなり の位の者や高名の者が多く若いのに顔を知らない僕の存在は陛下にはかなり目立って見えただろう。 その合格表彰の際、これは最終試験の採点官である皇帝陛下に対して子弟の誓いをする場でもあるのだが、前回は僕が師弟の契りを結ぼうとしたその場でこれを やられたのだ。 今回はそれほど多くないがこの前のときは居並ぶ高官達や同期合格者達の前などたくさんの人が居たその前で、 『私の取り持ちで結婚する気はないか?』 と。 陛下の知り合いと言えば後宮のものか皇族に決まっている。 そんな狭いところにいた人なんか考えるまでもなく断らせてもらったけれど。 陛下からしてみれば僕みたいな20にもなって未だ結婚や恋人どころか浮いた噂の一つもないなどと言うのは捨てては置けない一大事なのだろう。 それにしても…… あの後あきらめるどころか更に準備をして待っていたとは。 断ると深くは追求してこないのだけが救いかな。 皇帝による強い願いが命令と代わらないことを知っているのだろう。 陛下には悪いけれども、それを逆手に取らせてもらって今回も丁寧に感謝の意と断りの言葉を言えばこの話はおしまいになると思っていた。 けれど陛下は僕の方を見ていたずらそうににやりと笑うと続けた。 「そこまで意地を張ることもなかろうに。 それとも、すでに心に決めた姫君でも居るのかな? たとえば、万能なる朕にあっても好きにすること叶わぬ『姿無き姫君』?」 陛下に悪気など少しもなかったのだろう。 それどころかここまで調べを入れた陛下のことだ。 僕がいつまでも存在しない彼女を思いつづけて現実から目を背けていると考え一芝居打ってくれたのかもしれない。 でも、これは僕にとって決して触れて欲しくないもの、どれほど成長して大きくなろうとも消せない、そして一番楽しかった思い出。 彼女のおかげで、いや、彼女のせいで、かな? 僕は皆が忘れるという幼年時代をかなり鮮明に覚えている。 知らず知らずのうちに僕は臣下の礼を忘れ、陛下の目を見て話していた。 「皇帝陛下、我が師よ。 私は妻とするべき女性にいまだ巡り合えていないだけでございます。 そのことは、この前もはっきりと申したはず。 それをよりにもよって…… そのような根も葉もない噂を信じなされますな」 途端に周囲の雰囲気が変わる。 近衛兵は槍を構え、両宰相は必死で取り繕う。 「貴様、紅! 陛下に対してそのような口を!」 「陛下、寛大なご容赦を! ほれ、紅殿。 早く謝らんか!」 両宰相が慌てている。 僕もやってしまったと思い真っ青になる。 僕自身はともかく、家族に降りかかるかも知れないことを考えるとこの発言は軽率だった。 僕自身だけならばどうなろうとも、心残りはあっても興味はない。 こういう考えが人を愛せず、結婚もできない原因かもしれないが。 今のはいかにやんわりととはいえ陛下に対しての意見。 陛下に対して意見して良いのは陛下自身の手によって指名・任命される諌所の者のみ。 開祖帝の『その言を理由に人を殺してはならぬ』という言葉はいまだ忠実に守られているとはいえ、進言の許可ももらわずの意見などたった一つの例外を除いて 本来なら許されるはずはない。 陛下は僕の急変に驚きながらも 「いや、悪かったな、皆も静まれ。 悪いのは朕の方だ。 噂などを信じて軽はずみをしてしまったようだ すまないな、忘れてくれ 」 そして、ちょっといたずらっぽく笑って次のように言うと話を終わりにした。 「だが、女性関係で何か困ったことがあれば朕に言うがよい。 喜んで相談にのるぞ」 一つの例外。 陛下がその意を認めること。 だが、万能なるはずの皇帝陛下が自身の認めたものである諌所以外のものの言により非を認めることは自分の浅慮を表し、多少なりとも権威の失墜を意味する。 このような場だし、この程度で基盤が揺らぐほどの陛下でもないからたいした騒ぎにもならないだろうがそれでも書記の手によって公式の記録に残り、陛下の威 を落とし借りを作ったのは事実。 枢密使に陛下に、借りを返さねばならない相手が多くなってしまった。 枢密使は『私の末娘なんかもそろそろ結婚してもらわないと大変ですよ。 最後の子なので甘やかしすぎてしまいましたが、この紅とは年齢的にも釣り合いますし如何ですかねえ』などと問題発言を平気でしつつ場をとりなすと、陛下も それも良いなどと言い場の空気は元へと戻っていった。 もし僕がここで嫁に欲しいなどと言ったら一体、枢密使はどうしたのだろう。 父上の代で終わるかもしれない最下級の貴族の息子に本当に娘をあげられるか、自分の将来に関わりさえなければおもしろそうではある。 「さて紅狼、本来の用件に戻ろう。 そちには今回鎮鋼府将軍季国昌の副将として行ってこの国の領土維持に貢献してもらう事になった。 遠いが大事な所だ、宜しく頼むぞ。 後ほど枢密院より任命の旨、報せが届くであろう」 陛下はそういうとしばし唖然としてしまった僕の顔を予想通りというようにみて微笑してから続けた。 「おや、副将では不満かね? それとも場所が不満なのかな?」 そんなわけがない。 全国の中級以上の町及びその付近には府と言われる軍事上の拠点があり、その府のランクは町の大きさとは関係なく軍事的重要性によってのみ決まる。 鎮鋼府といえば京府禁軍のランク天、東西南北の各安府のランク五に続く軍事上一般の府では最高位とされるランク四だ。 全国に264あるといわれる府のうちランク四は現在15のみ。 全て西方及び北方に集中し、異民族との最前線にあたる。 鎮鋼、西地区を治める西安の更に西の西側国境付近にある西地区西方の軍事面における要所中の要所。 大陸の西側の連合と東側の帝国の西安を陸路でつなぐ央路の帝国側の関所3つや北方の長城などを管理し、人口は10万と辺境とは考えられない多さを誇り、そ のうち帝国兵が3万を占める。 産業は主に帝国兵や旅人に食べさせる食料の生産や、宿屋、西方連合との交易、そして帝国兵を慰めるための伽所…… 鎮鋼の情報が頭の中を流れパニックになりかけ、必死で考えろと自分に言い聞かす。 『考えろ、考えろ。 落ち着け!』 てっきりどこかの安の部隊長程度を任されてそのままその安で影響力をつけつつ出世していけば良いと思っていたのに。 安と鎮鋼府、ランクは西安の方が上だが小競り合いも含めて戦闘の機会は鎮鋼府の方がずっと多く、そこの副将である以上采配なども含めて戦功を上げる機会は 西安の部隊長などとは比較にならない。 そしてこの西方の要所に副将として派遣しようとした以上、枢密使の作戦も見えてくる。 とにかく最前線に出させて戦功を挙げさせ府の長官職としては滅多にない将軍級である鎮鋼府長官とする。 そして輝かしい戦績を持って西安府に将軍として迎えられる、か。 枢密使としても期待するのは鎮鋼などではなく西安での影響力のはずだから計画もそんなものだろう。 失敗したり負けるなどと言う可能性が微塵も考えられていない。 これが枢密使が僕に対して持っている期待か。 失敗したらそれまでのただの捨て駒なのかもしれないけど…… まあ良いさ。 どうせこのあと枢密使邸に呼ばれているのだから疑問はそこで晴らせば良い。 その後、皇帝に感謝の意を伝え、『早くそちの子が見たいぞ』と言う孫を待つ親のような陛下の別れの言葉を最後に宮城を出た。 その夜19時に枢密使邸に着いた。 時間指定は相手先からだが、はっきり言って宴や食事に呼ばれたのでなければ他家を訪問するには思い切り非常識な時間である。 入るまで間違いではないかとも疑っていたが入り口で門番に話すと即座に部屋に通されてそこで少し待つように言われたのでどうやら間違ってはいなさそうであ る。 逆に考えれば僕は宴にでも呼ばれたのだろう。 が、しばらく待って呼ばれた部屋では枢密使夫婦と張がそして年は14,5歳くらいだろうか、枢密使の娘だろうきれいな少女が一人居た。 質素に見えるがこれは遊女に囲まれての宴よりはるかに真摯な態度。 たかが一武官に対する扱いではない。 今日は驚かされることばかり。 「ま、そう恐縮するなよ。 この前は脅したりしてすまなかった。 その謝意と今回の就任祝いの意味を込めて今夜は一席持たせてもらったんだ。 俺の家族と君だけのささやかな席。 遠慮は無用だ」 まるで宴の主催者であるかのように張が言う。 主であるはずの枢密氏の前で。 が、それより 「我が家族?」 とつぶやいて自分の前を見る。 もちろんそこに居るのは張と枢密使家族。 その視線の意味に気づいたのか笑いながら張が自己紹介を始めた。 「はは、紹介が遅れたな。 俺は張辛。 ちなみにこいつは如春、妹のはずなんだが俺に対する態度だけはでかくてな。 正直困ってる」 そういわれて隣の娘はちょっとむっとした表情を見せながらも僕のほうを向いて一礼した。 「俺も枢密使家の息子なんだけど官に就くのも面倒が多いと思ってな、この通り親父の間諜みたいなものをしているんだ。 と言ってもあの饅頭屋へ通ってたのは別にあんたがその頃から俺がつかなきゃならないほど重要視されてたって訳じゃなくて、俺もああいったところで朝飯が食 い たかったからってのが理由なんだけれどな。 あの辺じゃ一番美味いだろ。 でも、紅もそれなりにビックになったし、無事うちの側についてもくれるようだし。 この任務は大成功かな」 張はあっけらかんとそう言うとニッと笑ったが、隣の席の如春は笑っていない。 「辛! 親父じゃなくてお父様でしょう。 それに客人に対してそんな口の聞き方がありますか」 これで僕の緊張は完全に解けた。 帝国屈指の貴族枢密使家、なんというところだ。 その後しばらく楽しい団欒が続いた。 何にでも明るい枢密使と彼を絶対的に信頼しているその妻、人懐こく場面によって貴族的な言葉と庶民的なもの、更には間諜的なものまで使い分ける辛とそれに 対していちいち突っか かる如春。 他の子供達は皆家庭を築き出て行ったらしい。 考えてみれば皇后となった長女の生んだ皇帝陛下が既に齢35なのだから当然かもしれない。 しばらくして場は酒宴に移り、枢密使の妻と娘の如春は席を外した。 そして、宴もたけなわになり、 「ところで紅。 うちの如春を見てどう思った?」 「明るくはきはきしていて良い子ですね。 多少気の強いところもあるようですけど、さすがは枢密使家の娘だけあってどこに出しても恥ずかしくないですよ。 いまだ嫁ぎ先が決まってないのが不思議なくらいですよ」 と言うと枢密使は満足したようにうなずいて続けた。 「そうかそうか。 それなら、 君がもらってはくれんかね?」 昼の台詞は冗談じゃなかったのか、目が点になった。 婚前の娘と見合わせる、つまり普通に考えれば先ほどの食事はそういうことになるのだが身分差がありすぎて気付きもしなかった。 「はっ? あの、幾らなんでもそれは余りにも身分が。 それに! 私は今から西の最果てに行くのですよ。 その長旅やそこでの生活は枢密使家の娘にはきつすぎませんか?」 「それはまあ、大丈夫さ。 あいつはそれなりに気丈だし、あいつのためなら親父は幾らでも金をおしまねえからな。 なんせあいつは俺に慣れちまってる、京の風流とか言ってるヘタレ坊や共と暮らすよかマシだろうぜ。 そっちの方がぜってぇあいつにゃ耐えらんねえよ」 「でも」 なおも僕が反論しかけるのを枢密使がさえぎる。 「ところで、だ。 仮に今のうちに結婚しなかったとして鎮鋼に行ったらどうなると思うかの? 鎮鋼には如春とは逆の意味で、だがそれ以上に君とは身分違いな女性しか居ないのだよ。 たまに西安へ行けるかもしれないがそれでもそこで貴族の女性との出会いなど望むべくもない。 政略結婚なら期待できるかもしれないがそんな相手ならうちの如春の方がはるかにマシな筈だよ」 はるかにマシどころか、皇家の姫君達を除いたら帝国内でもトップだろうに。 「後に京勤務になるか西安勤務になるかまではまだ分からないが、それでもその頃に君はもう結婚の適齢期を過ぎているだろう。 そういうことを全て考え合わせれば如春との結婚はさほど悪いとは思えないの。 それに…… この結婚を私に勧めたのは辛だ。 こやつが言うのだよ。 お主に足りぬのは血筋と経験だとな。 わしは思った、血筋ならばわしらが分けてやればよい。 経験もさせてやれる。 こやつも思った、お主なら妹を任せられる。 少なくともこの家においてはこやつとわしの考えが一致したのならやるべきことは決まっとる。 幸い陛下との会話を聞いとる限り多少気になるところはあるがまあ良い男のようだしな」 「け、けれど……」 「のう、知っておろう。 わしの娘の一人が陛下との子をなした。 わしは国父と呼ばれるようになった。 そんなわしにとってもはや身分の高さなどどうでも良いことなのだよ。 わしにはわしの都合があってこれ以上都で力をつけることは出来ぬしの。 確かにお主に娘をやれば我こそはと思っておった者どもから反感を買うかもしれぬがそれとてわしにとっては痒くもない。 お主に到ってはもはや京に居らぬしな」 「紅、親父の言う通りだぜ。 それに今ならこのままあいつの部屋に行っちまえる。 あいつもさっきの食事で覚悟はしているはずだ。 そうすりゃちょっと大変かもしれないが出発までに婚姻の儀はできるはずさ。 その間俺は2人が鎮鋼へ行って暮らせる準備をしておくからさ」 どうやら枢密使と張に引く気はないらしい。 でも、僕の結婚に対する考えに変化はないし、先の席で彼女の気持ちに気づいた僕としてはこの話を受ける気にはなれない。 とりあえず突破口を求めて辛の方を見てふとあることに気づいた僕はそれをそのまま口に出してしまっていた。 「辛。 枢密使の実の息子じゃない?」 始めは思い付きだったそれは、その言葉を口に出し辛の反応を見たことで確信に代わった。 枢密使が渋い顔をしている。 「いつ気づいた?」 「たった今。 でも今なら幾らでも証拠を上げられます」 「ふむ、例えば?」 「あなたへの態度。 幾らきちんとしようとしても親子ならば子の多少の甘えは私から見ればどうしても消せません。 そして、同じようにまた主への臣下の礼も幼い頃から身につけられたのならば消えはしません。 そういうものは意識して消そうとすればするほど見えてきます。 それに、余りにも普通に見えるので気づかなかったのですが、この席で聞かせてもらえた話から考えて辛の間者としての才は幼少の頃から叩き込まれているもの のそれでしょう。 幾らなんでも枢密使家の子供が生まれた頃からその様な躾を受けるとは考えられません」 そういって枢密使のほうを向くと枢密使は手をひらひらさせて、もう良いという仕草をしている。 「ふん、大抵のやつはこやつは卑しいものとの子とだけ言っておけばわしの子ではないとまでは思いつかないのだがな。 お主の考え通りこいつはわしの知り合いの息子さ。 そいつは暗い部分を担当するわしの影でわしの命の恩人でもある。 何度救われたことか。 そいつとその妻がこの子を残して亡くなったんだ、わしのために働き殺された。 そして、わしとの関係上他の親族との縁を完全に切っておったあやつの子供に頼るあてなどない。 わしがその子を息子とするのに何の疑問がある?」 「いいえ、普通のものにはできぬご英断と」 「では、それと今までの話、何の関わりがある? それはお主が如春を断る理由にはなるまい」 「関係はあります! 如春が好きなのは僕ではなく辛なのだから。 僕が一晩で気づいたんだ。 あなた方がそれに全く気づかなかったとは言わせませんよ」 そう言って挑むような目で辛を見る。 その挑むような目に映ったのははじめて見る驚くほど弱そうな辛の目、本心からの叫び。 「そんなこと。 そんなことくらい気づいていたさ」 辛はそれだけ言うと如春に聞こえる可能性に思い至ったのかトーンを落として続ける。 「だけど、俺にあいつのことは妹としか見れないんだ。 どんなに愛そうと思ったか。 それがいけないことだと思ってどれだけ苦しんだことか。 でも、それが妹のためだと思ったから。 でも、それはどんなにがんばってもダメで。 結局あいつは妹でしかないんだ。 幾らがんばっても俺にとってあいつは大好きな可愛い妹、それ以上にはなれないんだ」 枢密使は辛の告白を驚いた目で聞いている。 「そりゃ、最愛の妹っていうのは最高の地位だよ。 それ以上のものにしようと思っても難しいと思うよ。 でも、愛するっていうことはそれとはまた違うことだと思うんだ。 まあ、過去の居もしない亡霊に支配されて愛することを出来ない僕が言うのもなんだけどね」 当時の僕は3つ程度、普通に考えればそれが理由とは考えにくい。 けれど、他には思い当たる節が無い。 「『姿無き姫君』か。 お前も大変だな」 この男に言われても不思議と怒りは湧いてこない。 同じ痛みを持つもの同士が傷を舐めあう。 甘えた現実逃避でしかないかもしれないが、たまになら良いんじゃないかな。 しばらく沈黙が続いた後 「辛が如春のことをどう思っているかまではどうでもいいんです。 けれど、如春が私以外の男を愛している以上これは相手も自分も望まない結婚です。 そんなものを行うことだけは出来ません」 それだけ言うと僕は2人に礼を言って席を立った。 「確かにの」 「すまない」 2人とも見送りには来なかった。 その後辛と如春がどうなったのかは知らない。 僕が京に居る間、結局2人に関することは何も聞かなかったのだから。 ただ、後に鎮鋼へ着いた僕に辛から短い手紙が来た。 『ありがとう』 と。 |