「ときわ線」 木都行きリニア型新幹線である「ときわ新幹線」に並行して走る在来線。 ときわ新幹線は帝都から北方向に水都を経て木都へと走るリニア型新幹線。 その走行距離は500キロに達するが帝都、水都、木都の3駅の他は1時間に1本弱の各停専用駅として帝都と水都の間のときわ学園都市駅、水都と木都の間のいつき駅の2駅だけ、合計でも5つしか駅は無い。 そのため3駅しか止まらない方は弾丸、北方弾丸と呼ばれる。 採算は……知らない。 他に北へと向かう幹線鉄道としてときわ線が東よりに位置しているのに対して、帝都を出て西側を走る西北本線、及び西北新幹線がある。 -----------------------
ターミナル駅である上野駅へと向かう電車の中で時計を見る。 いつき駅に止まる各停新幹線の発車まで後20分、まだ駅に着いていないのだから切符を買ったりする時間などを考えると微妙に間に合わない計算ね。 さて、どうしようかな。 次の各停は1時間半後、これを待つのが一番賢いのかもしれない。 弾丸の方に乗ってもどうせ水都からときわ線のいつき行きに乗り換えなくちゃならないし、弾丸って自由席が無いから指定席分までお金取られちゃうからね。 それにきっといつきに着くのは各停を待つのとそう変わらないはず。 どうしようかなと家に電話してみたところ、 『どうせならときわ線で帰ってらっしゃいよ。 これで入試も全部終わって暇でしょう? 浮いた新幹線料金の半分は上げるから』 とのこと。 実際暇だし、他のどの経路を使ってもさっきの各停を逃したお陰で時間的なロスは大きそう。 新幹線料金の半額も魅力的だしここは親の案に乗ることにした。 これも1時間前で受験生という立場から開放されて時間を好きなように使えるお陰。 上野駅に着き、ときわ線ホームの階段を上るとちょうど電車がやって来るところだった。 乗車口の前には既に何人かずつの列が出来ていて、私もその列に加わる。 始発駅なので降車を終えて車内清掃が終わってからの乗車となる。 車内を見ると四人で囲む形のボックス席というやつ。 帰途という長旅には最適ね。 車内清掃を待っている間にも乗車を待つ人は増えている。 やっと清掃が終了してドアが開くと待って居た人達はみんな急いで中へと入って行く。 増えてきたとはいえ一応待って居る人の分の座席位は十分にあるのに、それでもやはり急いでしまうのはなんでなのだろう? そう思いながらやはり自分も急いで席を探すと、ボックス席の奥に一人で座ろうとしている人が居るのを見つけた。 彼の斜め向かいというのがそこそこ快適で良さそう。 本当はボックス席に一人と言うのが一番良いのだけれどさすがにそんな贅沢は無理みたい。 そこまで考えると彼が荷物を棚へ預けて座ろうとしている席へ向かい、斜め前の場所を確保する。 人の良さそうな好青年。 ちょっと良い男かな、少し幸せ。 そんなことを思ってたら、座席に座りかけていた彼は突然立ち上がると私の横の席へと場所を変える…… なに、なんでこっちに来るの? 新手のナンパ? それとも、これが帝都では普通なの? 相手の突然な謎の行動に少しパニックに陥った。 取り合えず相手の行動に不快感を感じた私は黙って座っていた席をたつと反対側の席に座り直す。 これでまた彼との位置は斜め前へと戻る。 さっきの行動が本当にナンパだったのかどうかは良く分からないけれど、今度は彼も私の横に座り直そうとはしてこなかった。 その内徐々に込んできて、私の座っているボックスにも二人連れのおばさんがやってきた。 しょうが無いから奥につめる。 これで彼の目の前の位置になった。 つまりは彼がさっき座りかけて止めた場所。 そして、 そのまま座ろうとして…… 彼の行動の全てを理解した。 座席のばねの部分が壊れているのかな、妙に変な沈み心地がする。 隣に座ってるときは何も無かったのに! まさか今更おばさん達にどいてくださいと言うわけにもいかないし、他の席ももう満杯。 立とうかなとも思うけれどこれから何時間電車に揺られるのかを考えるとその決心もつかない。 なんせ人はまだどんどん乗ってきてるのだから。 前を見ると彼は本を読んで視線を下に落としてはいるけれど、確かに目は笑っていた。 絶対に笑っている。 うぅっ、なんかむかつく。 しばらくして電車の発車時間になった。 その頃には立っている人もかなり多くなっていた。 さすがは帝都。 結構長い車両なのに、これだけの人。 今更この中で立つ気にはなれない。 帝都の電車の中には痴漢だっているという話なんだから。 とにかく、電車は動き始めた。 上野駅を出てから幾つもの駅を過ぎて、車内は徐々に空いてきた。 外はもう真っ暗。 それでも周りの風景に目を凝らしてみると、畑も目に付き始めるしもはや帝都の近郊とも言えない場所。 ようやく隣のおばさん達も降りる準備を始めた。 「お嬢さん、ちょっと腰を上げてくれないかな?」 おばさん達が降りて駅を出た後、即座に席を隣に移動すると、目の前の彼が突然話しかけてきた。 訳も分からないまま言われた通りに立ち上がると、彼は私の座って居たシートの部分を足で持ち上げてそれをそのまま横にずらす。 そして、 ガシャッ、という音と共にそれは固定された。 彼の顔を見るとうなずいたようなので再び座ってみる。 心地良い、とまでは到底いかないが違和感の無い座り心地。 隣の方もバンバンッと叩いてみるが問題なさそう。 な、何。 壊れてたんじゃなくて、横にずれてただけ? 「これでオッケイ、っと。 どうだ」 どうだ?って。 私が座り心地悪かったの知ってたのは別にいいわよ。 笑ったのだってまあ許せる。 でもその理由も直し方も知ってて、それで今まで黙ってるなんて! ・ ・ ・ ふぅ、やっと直せた。 少しずれてた気はしたけどそれが原因とは断定出来なかったし、おばさん達に話し掛ける気にもなれなくて今までは黙っていたのだけども。 やはり勇気を出して直して上げて良かったな。 ま、これで彼女も喜んでるだろう。 ところが目の前の少女の方に目をやると、何故か目にはちょっぴり涙なぞにじませつつ激しい目で俺の方を見ている。 あの目は…… 汀が怒ってる時と一緒だ。 何で怒らせてしまったのかはわからないが、こうなったらやることは限られてくる。 謝るか諭す。 だが、見たところ俺は年上のようだし、今回の件では悪いことをしたつもりは全く無い。 座りにくかった席を直して上げただけだしね。 諭しておくか。 「あのなあ……」 「何ですか?」 目が怖い、汀が怒ってるときと同じ…… それだけで最早反論する気を無くしてしまう。 「いや、悪かった」 思わず謝ってしまう。 「当然です」 なんか腑に落ちないものを感じる。 が、汀とつきあって数週間、この状況では絶対に勝てない事を俺は最早悟ってしまっている。 謝るに限る。 それにしても俺も変わったよな。 大学の友達なぞは俺の変わり具合に目をむいているが、それもこれも汀と居られるから。 汀に理想の男性像を聞いても笑って教えてはくれないが、それでももっと気を抜け、遊べというから頑張って遊ぶようにはしている。 とはいえ、大学がある上にこうやって頻繁に帰省もしてるのだから実際には遊んでる暇などないのだけれど。 それにしても汀は自分自身も世間的に少しお硬い方に入るのを理解しているのやら。 ま、「そこが良い」なんて思う俺みたいのがいるのだから問題は無いさ。 実際は「そこも良い」なんだけどな。 さて、汀のことを考えてばかりもいられない。 今は目の前にいる少女をどうにかするのが先か。 さっきからチョコチョコ視線を感じる。 視線が合うとその途端に外しているようだけれど。 これは…… 話し掛けた方が良いのか悪いのか微妙だよな。 いや、絶対に話し掛けた方が良いのだろうけれど、それは分るのだけど、その後の対処が難しそう。 にしても、顔とかはまあ似ているとまでは言えないけれど、こうして見てると行動が本当に汀そっくりだ。 面白い子だな。 とにかくあの汀に似ている時点で面白い子というのは確定。 少なくとも俺に取ってはな。 それにしても…… 何で俺は謝らされたりこんな目で見られたりしているのだろう? ・ ・ ・ う〜、何て男よ。 窓の方見て困った顔してるけど、たまに唇の端がぴくぴくしてる。 絶対に私のこと笑ってるんだわ。 ・ ・ ・ とにかくこのままだといきなり怒鳴られるか黙って席を移動されかねない。 話しかけてみよう。 「一人でこれに乗ってるってことはきっと家に帰るんだよね。 帝都には何しに行ったの?」 いきなり馴れ馴れしすぎたかな。 「大学入試」 無視されたらどうしようかと思ったがそっけないとはいえ返事をしてくれた。 「入試?この時期だと帝立後期か。 どこの大学?」 「言った方が良い?」 う、また目が怖い。 「いや、けっこう」 また微妙な間。 「そっちは?」 今度は少女の方がそれを打ち消すように聞いてくる。 「俺は帰省」 それ以上は聞いて来ない。 俺の返答が簡単すぎたか。 話をつなげ無いと…… 話しかけてしまった以上これは義務だと思う。 ・ ・ ・ 「家はどこ?」 相手は懲りずにまた話しかけてくる。 今までの会話を考える限り人と話すのは得意じゃなさそうなのに、気付いてないのかしら。 同じ席で無視するのもなんか変だし、今更席を移るのはもっと変。 とはいえ正直に答えるのも少ししゃくよね。 「そっちは?」 「俺は和泉、いつきの少し前だな」 「ふ〜ん、私は神保。 いつきからいつき線に乗り換えよ」 「そうか」 そこでまた微妙な沈黙。 話すのが得意じゃないなら話し掛けなければ良いのに。 彼はまた何か話題を考えてるようだったが、突然慌てたように聞いてきた。 「って、それならこの電車じゃやばいんじゃないのか?」 「終電のこと? 一応間に合うとは思うんだけど……」 とはいえ、かなり遅いなって気にはなってはた。 新幹線ならいつきまで一時間半くらいだったのに、これで二時間経つのに未だ水都にも着いていないんだから。 「ちょっと待て、コール終電」 そういって相手は端末を取り出す。 端末、正式名称はユビキタス何たらかんたらと長ったらしいけれども要するにそれ一つで色々なものに繋げられる。 例えばパソコン。 例えば電話。 例えばインターネット。 その他、例えば物によっちゃペンにだって繋がるのだ。 何するのかと言えば失くした時に所在を知らせてくれるぐらいらしいけれど…… コールの記憶に終電案内サイトを入れてるんだろうな。 コールは音声入力式命令の一つで、内容は相手の呼び出し。 キーボード式と音声式、複合式。 色々あるけど端末用では音声マスタ-キースレーブ型複合式というこの形式が圧倒的に多い。 「ん、やっぱり…… この電車がいつきに着くのが9時半で、いつき線の終電は8時半だ。 全然間に合って無いぞ」 「え、だって。 いつも夜中の10時過ぎに神保を出る下り列車が合ったはず……」 「小野神発の列車じゃないのか。 あの路線はいつき発が少ないだろ」 「えぇっ! ちょっとまって」 慌てて端末を取り出す。 『コールママ』 けれど、赤いランプが点灯してメッセージを送るかを聞いてくるだけ。 ……今は忙しいみたい。 とりあえず終電確認の件と迎えに来れるかをメッセージに入れておく。 「うわっ、どうしよ」 「最悪いつきの駅でホテルってことになるだろうな、お金は?」 「新幹線で帰るつもりだったし帝都でスリにあった時の予備分とかで泊まるくらいなら大丈夫」 「何で新幹線を使わなかったんだ。 これの後のやつでも7時には着いてるはずだぞ?」 「だって5千円も掛かるのよ」 「あのなあ……」 「そっちだってこれを使ってるのは同じ理由でしょ?」 「まあな。 俺は大学が帝都で彼女がこっちだから、出来るだけ週末は帰る様にしてるんだ。 今日も学校終えてから速攻だし。 けれどそうしてると、やはり金がな」 「大学ってもう休みじゃないの?」 「休みに入れば完全に休めるって訳じゃないし予備校もあるしな。 まあ、3月の終わりには実家でゆっくりしようとは思ってるさ。 って、俺の話なんざどうでもいいさ。 今は君をどうするかが先だろ」 そう言うと相手は何か考え始めた。 毎週10時間近くを彼女に会うための移動に当てているなんて。 こいつ、結構良い奴かもしれない。 そんなこと考えてる間に相手が妙に歯切れの悪い言い方で何か言っていた。 「ええっと、先に断っておくがさっき言ったように付き合ってるやつがいる。 今回帰省してるのもそいつに会うためだし」 ? 「あのさ、なんならうちに来ないか? 和泉ならならいつきにも近いからイツキ線の始発にも間に合うだろうし」 一度言葉を区切る。 「正直、ホテル代は高校生には少し高いだろ?」 うぅ、その通りだよ。 ホテルなんか泊まったらきっと新幹線使うのより高いよ…… ママに言えばホテル代は払ってくれるだろうけど、当然新幹線料金の半額の話はパー。 あの座り心地の悪かった席に座りながらあぶく銭で友達と映画を見に行く計画を立てていたと言うのに。 けれど、これなら…… ママをちょっと騙せばホテル代分のお金がもらえるのだ。 とはいえ、知らない男の人の家にいきなり泊まるってのはちょっとね。 良い人なんだろうけど…… そこまで考えてあることに気付く。 実家が和泉で彼女のために週末帰省している大学生? 「名前は?」 「俺か? 俺は柳沢晶」 あきら、か。 やっぱり…… 「ふーん、私は山和遥。 それじゃ、悪いけどお願いするわね」 さて、と面白いことになりそう。 あれからさらに3時間後、やっと和泉に着いた。 降りると女の人が歩いてくる。 初め怪訝そうな顔をしていたが、取り合えずと言う感じで近づいて来る。 少しきつそうな雰囲気を身に纏っている。 このオーラには実はもう慣れてる。 慣れてるけど…… 「えっと……?」 私が戸惑ってみせたのを見て彼が囁いてくる。 「アレが俺の彼女さ」 女の人は今までも不機嫌そうな顔だったけれど、彼の行動を見て関係を誤解したのか女の人は途端に怒った顔に変わる。 間違いない、汀さんだ。 そのまま近づいてくるが、向こうもすぐに私の顔に気付いたのか驚いた顔になる。 晶さんの後ろで見えないようにシーッと人差し指を立てて口に当てるジェスチャー。 伝わったかな? 「あ・き・ら! お久しぶり」 かなりの怒気をはらんだ声。 慌てている彼にその奥底に潜む笑いは気付けないだろう。 どうやら伝わったみたい。 「よお久しぶり。 何怒ってるのさ?」 「お隣に居る可愛い子は誰?」 「ん、さっき電車で会った子。 いつき線の終電のがしちまって家に帰れないらしいから俺んとこに泊めてやろうかと思ってさ」 きっと電車の中で何て言おうかずっと考えてたのだろう。 その後慌てたように付けたす。 「か、勘違いするなよ。 可愛そうだから泊めてやるだけだしこいつにも彼女が居るとはきちんと言ってあるし……」 「ふ〜ん。 で、会って数時間の女の子を家に上げる、と?」 「い、いや…… ほら、会って1ヶ月にも経たない男を彼氏にしちゃう女も居るわけだし」 「それはあんただって同じでしょ! それに、ほら。 私達にはたくさんの思い出があったから」 なんとなく妙な雰囲気。 「えっと、やっぱり私ホテルに泊まります。 お金なら多少は持ってますし、やっぱり会ったばかりの男の人の家に泊めてもらうってのも変ですよね。 ほら、目の前に丁度ホテル7千円って」 焦ったように私がそう言うと、汀さんはやっとこっちの方を見て優しい表情で続けた。 「別に良いわよ。 こいつが家に招いた客を追い出す権利は私にないし、そもそもあなたが気にすることじゃないわ。 困った時にはお互い様ってね。 ここのホテルに泊まる気だったのなら安爺の客を奪うようで気が引けるけど」 そこまで言うと今度は晶さんの方を向いて続ける。 「その代わり、私も泊まらせて貰うわよ? 良いわよね、晶」 私も泊まるの一言に晶さんは凍りつく、 「ちょっと待て、まだ正式に親に紹介するのは早くないか? こういうのはだなぁ、もっときちんとした手順を踏んでだな」 「何硬いこと言ってるのよ、それに手順っていったい何するのよ?」 「いや、単に俺の心の準備が出来ていないってだけの話だが」 「ふ〜ん、私はあくまで臨時。 親に紹介する気はないと。 で、明日にはこの子に乗り換えてるわけだ」 「そ、そんなことは言って無いだろ」 「なら、どういう?」 「そもそも、どうでも良い奴に会いに毎週ここまで帰ってくる奴がいるか?」 「そうやって愛情をお金と時間で訴えるのね」 「だから、そんなこと言ってない。 俺が日曜日にここを出るときにどれくらい寂しいか、平日帝都に居る間お前にどれほど会いたいと思っているかをお前は分ってないからそんなことが……」 「その割に電話はくれないわね」 「それは…… 別に毎週会いに来てるんだからいいだろ」 「そういえば、私が付き合うのオーケーしてから帰ってくる回数が微妙に減った? 先週もメールで来れないとだけ送ってきて結局来なかったし」 晶さんが諦めたように両手を挙げる。 「あぁ、わかったよ。 ちょっと待ってろ、今家に電話するから」 そこで汀さんは笑いながら返した。 「ふふ、おばさんに電話する必要なんてないわよ。 私に電話出来ないのは毎週帰ってきて私と会うために帝都では死ぬほど忙しいから。 ここに来るお金は去年の夏に辛い思いして貯めた外国へ見聞を広めに行くための大事なお金。 親に紹介したくないのはこんな犠牲を払っていることを私には知られたくないから?」 今度こそ晶さんは本気で慌てた。 「な、何で知って……」 汀さんはプイと後ろを向くと一歩二歩と歩きながら続ける。 さすがに照れくさいに違いない。 「馬鹿ねえ、今までだって忙しそうでお金も無かったあなたが何の犠牲も払ってないなんて考えてるはず無いじゃない。 でもね、ここまで詳しいのは昨日あなたのお母さんに会ったから。 海に居たらおばさんが来て明日遊びに来ないかって。 いつも海に行くと釣りしてるおじさん達居るでしょ。 あそこから私達のことは筒抜けだったらしいわよ。 そもそも、あんた週末毎に実家に帰ってくる自分の行動がどれほど怪しいか気付いてなかったの?」 ふふっ、晶さんか。 おもしろい人かもしれない。 とはいえ、これ以上遊ぶのも気が引けるかな。 ちょうどママからもメールが届く。 『姉さんの家に泊まらせてもらいなさい』 姉さん、ママがそう呼ぶ相手は一人だけ。 和泉のおばさん。 「汀さん、そろそろ遊ぶのは止めましょうよ」 「ん、そうね」 「???」 晶さんは不思議そうな顔をする。 「紹介するわ、私の従姉妹で来年帝都の大学へ進学予定の山和遥ちゃん」 しばらく何か考えているようだったが突然手を古風にぽんと打つ。 どうやらやっと気付いた様。 「ってことは……」 「もちろん、晶さんのことは汀さんに聞いて知ってました。 じゃなきゃ知らない人の家に泊まろうとするわけなんて無いじゃないですか。 話し聞いた時は偶然の一致に驚いちゃいましたけど……」 晶さんが何か言おうとするのを汀さんが止める。 「ところで、まだ一つ聞いてないことがあったわよね。 遥、あなたどうしてこいつと一緒だったの」 「えと、晶さんに車内でナンパされて……」 汀さんの顔色が変わる。 「あきらっ!」 晶さんが必死で何か弁解し始めた。 大学入試もこれで全て終わったことだし、帝都には頼もしい(?)知り合いも一人出来た。 さぁて、今夜は楽しくなりそう。 |