二.子供の夢
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3月11日: なんだかビックニュースらしい。 学校中が異様にはしゃいでいる。 なんとこの小学校の卒業生が帝都大学に受かったらしい。 帝大、この国で一番レベルの高い大学。 この小学校出身は10年ぶりらしい。 先生たちもみんなはしゃいでる。 担任の先生は、 『おまえらも頑張ればこんな風に成れるんだぞ。 こいつは我が校の誇りだ。』 と言っていた。 誰でも??? それなら、僕でも? そうなるだろう。 頑張れば。 頑張って勉強さえすれば。 きっと…… 5年: 4月7日: 2度目のクラス替えだ。 汀どころか女の子3人組、きっちゃんとも同じクラスになれてなんだかとても嬉しい。 同時に、クラス替えはくじで決まるなんて真っ赤な嘘。 精神的に弱かったり問題のある人たちの人間関係を優先的に判断して決定していると言う噂も現実味を帯びてくる。 学校は僕のことを『言語障害あり』と判断しているのだから。 そう、今は普通に暮らしているけどそれは回りのみんなが僕の話し方になれてくれてるから。 僕の話し方が前よりゆっくりになったわけでは決して無い。 たまに自分でもみんなと同じように話せてるという幸せな勘違いをするんだけどね。 今でも初めて会う人は僕の言葉がほとんど分からない。 更にそういう人と話す場合に、僕自身が緊張して余計早口になったりどもっちゃうせいで余計に話を伝えられない。 きっちゃんは『友達が少なくコミュニケーションを取るのは特に苦手、良く仲間外れにされる』だ。 確かにきっちゃんは僕たち以外と話をしないけど、それは僕たちが居ればそれで十分だからのはずなのに。 何でそんなじょうほうを知ってるのかって? なんでだろう? どこかで見た気がする。 今より大きくなって。 今より大きくなって? どうだっていいや。 ともかく3年になって分かれた友達とも同じクラスになれたりした反面、3人組ときっちゃん以外の多くの4年までの友達とは分かれることになった。 でも、この5人で居られる限り何も怖いことなど無い。 4月20日: 去年までは違うクラスだった人達がいきなり同じ部屋に集まるなんて無理がある。 男の子達の間で2つのグループが対立し始めちゃった。 両方に友達が居る上、ぼーっとしてるから僕やきっちゃんはいまだどっちつかずの状態だけど、2つのグループのお互いへの嫌がらせはだんだん陰湿に成っていく。 女の子達にも小規模ながらその兆しが出てきているよう。 僕はただ5人で楽しくやっていたいのに。 勉強だって忙しい。 5月2日: 女の子達は対立するのを止めたみたい。 なんと立役者はもこちゃん。 学校の帰りに汀が言うには、 『3,4年の頃の私達のクラスの子5人、要するに私ともこと奈央、後は高田さんと桂さんね、は争いに加わる気なんて無かったの。 だけど他のクラスの子達が5人と6人のグループに分かれちゃってて、彼女達で盛り上がっちゃってて収拾つかなくなりそうだったのね。 それでね、もこがね、体育の後の着替えの時に2つのグループの前で言ったの。 「仲良くしようよ。 けんかしてもつまんないよ」って。 そんなの聞く相手じゃないと思ってみてたら突然私達の名前を挙げて、 「わたし達と敵対したいのなら思うようにやれば良いよ。 こっちの嫌いな方がつぶれるだけだから。 言っとくけれど勝つのは確実に私達が入った方よ。 その後どうなるか…… 代表の子は特に覚悟しててね。 覚悟しておいて損することは無いわよ。 もしかしたらその後もう片方もつぶされちゃうかもしれないしね」 って、かっこよくない? その時は2グループとも怒っちゃって私もどうなるのかと思ったけど翌日には仲直りしてみんなで仲良くしようってことになったの。 もこすごいよね!』 『代表の子達、家に帰って冷静に考えたら怖くなったんじゃないの?』 『そっかー。 うちらってば結構怖いのかな?』 『汀たち3人は、もこちゃんって言う知恵袋があるし。 もこちゃんホントに何も考えてなさそうなのにね。 残りも桂さんはともかく高田さんなんて絶対敵に回したくないだろうし。 僕だったら泣いて謝るよ』 『アハハ、言えてる。 高田さん怒らせたら何やるかわからなそう。 その上たくましいもんね』 『うん、絶対に僕より強そうだよ』 高田さんは3年から一緒のクラスの女の子。 誰とでも仲良くがモットーで、正義感が強くておせっかい焼き。 それよりも怖いのは正しいと考えたら後はもう猪突猛進するその性格と、それに伴うだけのたくましい腕っ節。 それにしても、奈央ちゃんが啖呵を切るならともかくもこちゃんがそんなことをするなんて、意外。 男子の方は相変わらずの状態が続いている。 5月16日: 僕も遂に片方のグループに入らざるを得なくなった。 そして仲間と敵(僕にとってはこの相手も友達なのに)の筆箱を隠そうとしてた所をあっさり先生に見つかって『坊主にくけりゃ袈裟までにくい』と言う言葉の汚さとか怖さについて延々と説教された。 よく分からないけど僕はもうこりごり。 義理立てて入ったけれど悪いね、もう抜けるよ。 7月1日: あんなに対立してた2つのグループが気付いたら無くなっている。 『我が侭ばっか言ってたら結局友達無くしちゃうのよ』 とは奈央ちゃんの言。 もこちゃんが言うには、「みんな晶君みたいに敵グループに友達が居るんだから、そうそういつまでも代表格の子についていくわけが無いよね」ということらしい。 10月3日: 『くらえっ!』 学校帰りに突然、後ろから蹴られる。 倒れたところに3人がかりで殴りかかってこられる。 痛い、ナンデ。 相手を見ると見覚えがある。 確か隣の子供会の4年生。 でも、理由がワカラナイ。 この子達は僕を見かけるといつもからかってくるけれど倒れるほど強く蹴ってくることなんて無かった。 そもそも僕とこの子達とのつながりなんて代表格の子と少し話したことが有るくらいだ。 ずっと前に。 それが、ナンデ…… しばらくうずくまって身を守っていたらちょうど下校途中の健太君が走ってきて追い払ってくれた。 最近はもう登校中か学校内で運良く会わない限り話すことも無いけれど、昔はすごく仲の良かった僕の友達。 『大丈夫だったか?』 『うん』 『どうした? 何があったんだ?』 『わからない。 突然後ろから蹴られて乗っかられて殴られた』 『チッ! ただの憂さ晴らしかよ。 どうせ馬鹿なことやって先公にでも怒られたんだろうぜ。 気にするな、お前は全然悪くねえ。 八つ当たり以外の何でもねえじゃねえか。 今度きつーくしぼってやるからな』 今度?そんなのどうでもいい。 『何で? 何で、僕なの?』 気が付くとつぶやいていた僕に健太君はちょっと言いづらそうにしてから口を開いた。 『あいつらにとってお前は格好なんだよ。 年下をいじめたら完全な弱いものいじめだ。 その子の親や属する子供会の先輩に話が飛んで次の日に大目玉食らった挙句、その先輩達からは逆にいじめの対象にされちまうからな。 その点、年上のやつなら多少無茶しても大丈夫。 さらに、 そいつが……』 健太君は少し言いよどんでから続けた。 『弱そうで普通じゃないやつだったら特にな。 そう思ったんだろうな。 頼れる友達も多くないとでも思ったんだろ。 要するにいじめやすそうなやつだと思われちまったんだ。 実際は全く逆なのにな。 どうする、先生にでも言うか? それとも仲間呼んで明日襲うか?』 『ううん、良い』 『でもな、今言っただろ。 それこそ、お前が泣き寝入りすることこそ、相手の作戦なんだぞ?』 『うん、でも良い』 『そっか。 じゃあ、俺も止める。 年下相手に抗争してもつまらねえからな』 抗争? 一体どこまでしてくれるつもりだったのだろう…… それにしても。 弱そうで普通じゃないやつ。 ソンナヤツ、汀ニフサワシイ? 10月3日(夜): 『晶。 どうした、何かあったのか? 最近ちょっと暗いぞ?』 お姉ちゃんがつとめて明るくそう聞いてくる。 お姉ちゃんももう中学生。 自分のことで大変だろうし、僕だってもう5年生だ。 そういつまでも頼ってはいられない。 『お姉ちゃんが、』 だから、心配させないように…… 『お姉ちゃんが悪いんだ!』 あれ? 『僕一人じゃ、』 違う、4月から半年間も一人で頑張ってきたのに。 『言葉も上手く話せないし、力だって弱いし。 なのにお姉ちゃんが僕を置いて中学なんていっちゃうから!』 こんなこと言いたいんじゃないのに。 『何で僕を置いて中学なんていっちゃうんだよ!』 お姉ちゃんはそれでも優しい目で僕を見てる。 『何で僕がいじめられても守ってくれないんだよ!』 限界だった。 涙が出てくる。 お姉ちゃんが中学に行くんだから、強くなろうと思ったのに。 でもお姉ちゃんは優しくて強いから…… 結局頼ってしまう。 やっぱりお姉ちゃんが居ないとダメらしい。 僕は弱いのかな。 そう思った。 でも、ふとお姉ちゃんの方を見るとお姉ちゃんは目から大粒の涙を流して座りこんでいた。 『ごめんね。 晶をおいて中学なんて行っちゃってごめんね。 守ってあげられなくてごめんね。 半年間も放っといて、ほんとうにごめんね』 お姉ちゃんが、泣いてる? 『でも、大丈夫だよ。 晶は私の自慢の弟なんだから。 例え話せなくなったって、例え体が動かなくっなったとしたって、 優しくって明るい、私の自慢の弟なんだから』 お姉ちゃんはそう言いながら抱きしめてくれた。 なんか少し照れくさいけれども気持ちがいいのでされるがままになっている。 そうだね、頑張るよ。 明日からは頑張る。 だから、今日だけは。 10月4日: 『どうしたの晶君、なんか張り切っちゃってる?』 朝、3人組が登校してきて汀からそう言われる。 昨日何があっても、この子を見てると心から思える。 絶対に頑張ろう、と。 でもそんなのみんなに報告することじゃない。 『別にどうもないけど?』 だからそう言ったら、もこちゃんが割って入ってくる。 『そう? でも、もし晶君に本気で張り切られたら私大変。 最近の試験ではただでさえ負けが続いてるって言うのに』 『ハハハ。 あたしなんてもう完全に諦めてるから平気だもーん。 晶君、その調子でもこを完全につぶしてくれ』 『奈央ちゃん、ひどい』 11月23日: 班ごとの研究発表をするらしい。 久しぶりに同じ班になった汀の家で土曜日に集まってみんなで相談することになる。 汀の家に上がるのは初めてだ。 なんだかドキドキする。 11月25日: せっかくの初めての訪問は、汀のお家の都合でつぶれてしまう。 逃した魚はとても大きい。ちょっと悔しいかな。 2月: 相変わらず僕をからかう人は消えないけれど、逆に試験の後、僕に質問にくる人も出てきた。 授業でも僕は良く手を上げるようになった。 先生は発表を聞き取れない人がいても良いようにあとから繰り返してくれる。 みんなに僕が知られていく。 邪魔で早口なだけではない僕が。 6年: 今年から日曜日には塾に行くことになった。 お父さんとお母さんと話し合って決めた「あれ」のため。 今まで毎日遊んでいたのに、どうなるんだろう? 6月17日18日19日: 修学旅行。 うちの学校は昔の偉い将軍様が祭られている神光市へ行く。 鹿が居たり、世界一大きな仏像があったり夜景がすごく綺麗だったりしてすごいところだった。 2泊3日もあったので久しぶりに汀とたっぷり話せた。 そう、この3日間たっぷり話して気付いた。 最近一緒に居られる時間は増えこそすれ減っては居ないはずなのに、汀と話す時間は減ってきている。 何故だろう。 とにかくこれで3日間も勉強が出来なかったんだから、明日からはまた勉強を頑張らないと。 7月3日: 『最近の晶君つまんない。 作り笑いなんて止めて。 ね、もっと楽しそうに笑ってよ』 汀が何か言ってくる。 僕がつまらない? 頭も良くなったのに。 先生にも良く誉められるのに。 つまらない? 何故?と言いたいが何故だかは分かってる。 友達が増えたから。 3年になって減ったはずの付き合いだけで話をする友達が増えてきたから。 昔は僕が寂しいのは嫌でこちらからだったけれど。 今度はあっちから。 何かしらの目的を持って。 そんなやつらと話してても余り楽しくないし、汀たちと話す時間が少なくなってしまう。 でも、他に何か。 胸に疼く。 僕自身、本当はつまらないと感じてるはずのモノ。 7月27日: みんなでプールに行くんだって約束したのに直前になって汀が夏風邪を引いて来れなくなっちゃった。 その日は残りのみんなとプールに行って。 次の日に汀の家へお見舞いにもこちゃんと奈央ちゃんといったのだけれど、プールどうだったって聞かれて 『とても楽しかったよ』って言ったら 『私が居ないのに、みんなだけで』 とか言ってすねられちゃったんだよな。 それで結局汀の風邪が治ってからもう一度、今度は海に行く羽目になって…… 『晶君、ホント泳ぎだけは得意なんだよね』 『だけ、は余計だよ』 『ほら、もっと笑って。 せっかく来たんだからもっと楽しまないと』 そのときの汀のはしゃぎ様ったら無かったな。 あれ、おかしい。 その時、俺は妙な違和感を覚えた。 俺はこの2度目のプールには塾の講習があって行けなかった筈じゃ・・・ でも、塾を休んででも一緒に行きたいと思ったのはホントだ。 10月15日: クラスのみんなでお掃除中、友達が汀と僕のことをイイナヅケと言ってからかい始めた。 きっと漫画の影響だろう。 肯定なんて恥ずかしくって出来やしない。 そもそも現実として違うんだ。 それでも否定するのももったいない気がして結局『そんな言葉知らないけど、そうかもね』と言ってシラを切った。 後ろに居たから汀の表情は分からなかったけど、きっと真っ赤になってるはずだ。 11月13日: 6年生の卒業旅行。 クラス毎にどこへ行くのか自由に決められる。 僕たちは近くの山へ行くことになった。 近くと言っても4年の遠足の山よりはずっと遠くのもっと高い山。 バスに乗って山に登った後、近くの公園でお食事と自由時間になる。 自由時間にやることはいつもの休み時間と同じようにどろけい。 でも、いつもは、10人程度なのに今回はクラス全員。 いつもは仲間に入らないような人やクラスの女子、先生まで参加してる。 『もこちゃん、そっち追いかけて!』 『晶君、捕まえた!』 なんでもない時間。 でも、こんなことをみんなと出来るのも後半年かと思うと何故だか悲しくなってきた。 ナラ、ナンデアキラメナイ? 「アレ」ハイツデモヤメラレル。 12月20日: お正月に初詣と初日の出をかねて近所の海に近い神社に行こうって話しになる。 メンバーは女の子3人組と僕ときっちゃんだ。 12月21日: 汀が初詣に行くのにそんな暗い時間に一人じゃダメだと言われたので、僕が迎えに行くことになる。 女の子同士では頼りないし、きっちゃんより僕の方が汀の家から近いんだからしょうがない。 12月24日: クリスマスはみんな親と家でやると言うので、放課後に先生を連れて近所のレストランでクリスマスパーティーを開いた。 出席者がたくさん居たので汀の横になれなかった。 汀、なんだかすねてるみたいだったな。 3人組にきっちゃんも居たというのに僕も余り楽しめなかった。 いつのまにか僕の横に汀が居るのは当然のことになっていた。 1月1日5時: 電話がかかってきた。 それをとったお母さんによるときっちゃんちのおばさんからで、 『昨日夜遅くまで起きてたせいかきっちゃんったらどうしても起きられないって言い張って起きないの。 今日はもう行けなさそうだわ。 うちの子ったらまだ子供だから…… ホントにごめんなさいね』 ということらしい。 今はまだ朝の5時なんだからしょうがない。 汀の家に迎えに行くと、彼女も、奈央ちゃんともこちゃんが来れないと言ってたと言われた。 3人とも子供なんだから、と思ってると横で加里菜が 『3人とも来ないなんて、、、、 これは計られたみたいね。 3人とも妙な気をつかっちゃって』 それからさらに声を落として『でもありがと♪』とかつぶやいていた。 しょうがないから2人でぎこちない『あけましておめでとうございます』をして近所の神社へ向かった。 神社に着いた頃にはもう空も少し白じんできていた。 まもなく初日の出。 天気も問題なし。 だけど、問題はあった。 みんなで必死になって参考にした漫画や雑誌では神社は人であふれて屋台がたくさん立っているはずなのに、神社には人一人いない。 どうやら近所の神社では小さすぎたらしい。 良く考えれば僕達だって今年まではこんなことしようとも思わなかったくらいなわけだし。 さらに困ったことに2人とも100円玉3枚ずつしか親からもらってなかった。 『これじゃお賽銭できないね。』 と僕が言うと、加里菜は 『でもせっかくだから2人で1枚投げようか?』 と言う。 でも僕達にとっては100円は大きなお金で、それを神様に上げちゃうなんてもったいなくて踏ん切りがつかなくて。 でも、汀と2人で来たのにお祈りをしないで帰るのもなんか癪で。 そうやって2人で悩んでると、結局、近くの小屋、社務所とか言ってたな、でコタツに入ってテレビを見ていた神主さんと紅白の着物を着た女の人が出てきて、5円玉をくれた。 僕たちがお金を人からもらっちゃいけないと言い張ると、 『これはね、お姉ちゃんからのお年玉だからいいのよ。 君達お年玉分かるよね?』 と着物のお姉ちゃんが言ったので2人ともやっと喜んで神様にお賽銭あげてお願いしたんだ。 僕のお願いは「アノコト」の成就と汀達と仲良くいられること。 自分でも矛盾してると思う。 でも、僕の望むたった2つの願いがそれなんだからどうしようもない。 汀はどんなお願いをしたか教えてくれないで笑ってた。 その後、「寒かったろう」って社務所に入れてもらってコタツに入ってたら、神主さんが甘酒を持ってきてくれる間に2人とも眠っちゃったので神主さん達は僕たちがどこの子かわからなくって困っちゃったらしい。 2人の家も子供達がいつまでたっても帰ってこないから騒ぎになって遂には警察に連絡までしたらしいんだけど、そこで神主さんが先に警察の方に神社で子供を2人預かっている旨伝えててくれたから騒ぎが大きくならなくてすんだんだけどね。 その後お詫びに2人で神社のお手伝いをした。 汀は紅白の着物着せてもらって喜んでたな。 近所の神社なので友達が来る。 『柳沢君に内木さんだ。 バイトしちゃいけないんだー』 とか言われても全く困らない、僕らはこう言い返せるから。 『貰ったのはおきゅうりょうじゃないもん。 お年玉だもん』 って。 忙しいせいかお昼のご飯はお餅だけだったけれど、お昼を過ぎた辺りからおじいちゃんおばあちゃんが社務所に集まってきておせち料理とかたこ焼きとか分けてくれた。 おせち料理ってきれいだけど…… やっぱたこ焼きの方がおいしいや。 そして、その後僕達は日が暮れる前に帰りなさいと言われて神社を出て、2人で『このまま帰るのはなんかもったいないね』と話しあって。 そして、海へ行くことにした。 お正月の海は夕焼けに染まって少し寂しそうで…… 僕達は砂浜を越えて堤防まで歩くとお互いの背によりかかる様に座って、じっと夕日を見ていた。 背を向けて座っていたのだから汀が見ていたのは海の方かな。 なんだか真剣な表情をして夕日に照らされた汀はすごく大人っぽくて、すごくきれいで。 そして、僕はそこで生まれて初めての告白をされて…… そこで僕は初めて女の子をだました。 世界一大好きな女の子を。 こんな僕のことを信じて、好きだとまで言ってくれた子を。 好きな相手に好きと言わないのはただの意気地なし。 だけど、好きな相手に告白されても好きと言わないのは最低の裏切り。 でも、これはまだ一度目。 初めてのことだ、間違えはきっと誰にでもある。 ・ ・ ・ |
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