近くでポツンと

作:夢希



高校2年5月
雨の日の正面玄関


 外はドシャ降りだった。
一,二時間待てば多少雨足は落ちるかもしれないけど、それでも当分止みそうにはない。
そんな雨。
朝はどんよりと曇っていた、どころか小雨まで降っていたというのに遅刻ぎりぎり急いでいた私はつい傘を持たずに走って学校まで来てしまったのだ。
良い子で居る事は止めたはずなのに、遅刻とかには今でもつい反応してしまう。
そういうわけで他の人はみんな傘を持って来ている。
今日傘を持っていないのなんて私くらい。
まさか、帰りがこんなドシャ降りになるなんて思いもしなかった。

 傘を借りようにも知り合いは見当たらない。
購買部はもう閉まっているし今の持ち合わせじゃどのみち傘なんて買えやしない。
部室にある置き傘?
私は部活なんか入ってない。
そこら辺の傘立てから一本くらい?
それが出来る性格ならはなからそうしてるわよ。
仕方無い、か。
どうせもう5月、濡れて帰ってもその後お風呂に入って温まれば風邪を引くということはない。
……ないだろう。
……そう願いたい。
……そうに決まった!

 覚悟を決めて家までの道を走って帰ろうと構えたその時だった。
「藤井さん、藤井さん。
何をしようとしているの?」
後ろの廊下から呼び声がする。
向こうは私の事を知って居るようだけれども私には聞き覚えがない。
いや、最近たまに聞くような気もするかな、ともかく男子の声だ。
誰だっけ? そう思って振り向くと相手は確か今年の四月から同じクラスになった……
「ええっと、確か。
右から二列目一番前のなんか、、、頭の良さそうな人?」
悪いけど今の私にクラス全員分の名前を覚える気はない。
席を覚えていただけでも感謝して欲しいくらい。
いつも自分の席に座って一人でぼうっとしてるから覚えてただけだけど。
思わずおとなしそうな人と言いそうになったのをすんでのところで頭の良さそうなと言い換えたほど。
けれど、この言い方もちょっと間違え。
「はは、成績は多分藤井さんの方が上だと思うけど。
僕の名前は堀だよ。
堀稜」
考えてみればクラス一位の私より頭の良い人なんてうちのクラスに居る道理が無いんだった。
嫌味に思われたかなぁと相手の顔を覗うがそういう心配は無さそう。
「で、堀君は私に何か用?」
堀君を促す、ちょっと硬い感じになったかな。
別に警戒とかをしてるわけじゃない。
ただ、こういう態度で居ることを自分に強制してたら最近はこれが自然になってしまっただけ。
それでも堀君は気にすることなく続けてきた。
「うん、ひょっとしたら藤井さん傘を忘れたのかな?って。
もしそうだったらこの雨の中を傘無しで帰るのはさすがにかわいそうだし、僕のを貸すよ。
僕は一緒に帰る相手が居るからそれに入れてもらえば良いし」
「え、でもぉ……」
さすがに始めて話す相手から傘を借りるのはちょっと遠慮したいかも。
「それともこの雨の中を傘無しで帰るの?
本当に?
止めはしないけどさ」
そう言っていたずらっぽく笑う。
言われて外を見るとなぜかさっき走って帰るのを決断したときより数段嫌な感じがする。
そもそも玄関前のひさしってば雨の音を詐欺っぽい位に増幅してくれちゃうのがより悪い。
そして、傘の話は抗いきれない誘惑となって聞こえてくる。
心の中で『ここで受け取らないと逆にせっかく声を掛けてくれた相手にも悪いしね』と自己正当化も完了させたことだし。
「ほ、本当に良いのね?」
あとは喜んで借りるだけ。
「もちろん。
あとで返してくれさえすれば」
「うわ!
堀君サンキュ♪
後で絶対にお礼するから!」
「そんな、別に返してくれればそれで良いから」
「じゃ、とにかくありがと。
また明日ね」
「うん、また明日」




 今年になって初めて同じクラスになっただけのただのクラスメイト。
 ほぼ毎日会ってはいたけれど、話したのはこれが初めて。



 馬鹿みたいな話。
 たったこれだけで。
 なんでどきどきするんだろう?
 一目惚れみたいなもの?



 馬鹿だった。
 相手が気に掛けてくれたと思った。
 たったこれだけのことで相手も自分に好意を持ってくれているとすら思ってしまった。



 彼の一緒に帰る相手が誰かも知らずに……




翌日

「堀君おはよ!
借りた品は傘立ての方に置いておいたから。
昨日はホントありがとうね。
これはほんのお礼♪」
自分の気持ちに気づいたら即座に行動へ移せるのは私の長所。
特に堀君みたいな大人しいタイプに『待ってれば相手から来てくれるかも♪』なんてのはあまり期待出来ない。
行動あるのみなのだ。
そういうわけで昨日傘を借りて家に帰ると即座にクッキー作りに取り掛かった。
元々ママがお菓子作りの好きなお陰で小さい頃から良く一緒に作ってたので腕には自信がある。
材料だって作る種類さえ気にしなければママが常備しているのを使えば良いし。
堀君はちょっと困った顔をしてクッキーを受け取ると、
「うん、ありがとう」
それだけしか言わなかった。
うぅ、張り切り甲斐の無い男。
普通の人ならそう思ったかもしれない。
でも、堀君の性格を今までの教室での言動と昨日の会話でちょっとつかんだ今は違う。
クッキーを受け取ってお礼を言ってくれた、とりあえずそれだけで満足。
まずは仲良くなれれば。
授業の合間の小休みにも堀君のところへ話しに行く。
そうやって少しずつ積み重ねていけばいい。
そりゃ周囲に勘繰られるかもしれないけど、それは逆に考えれば他の女子に堀君は私が狙っている事を見せてることになるから余計なちょっかいを出させなくで きる。
中学の頃にクラスをまとめていた時の知識がこんなところで役に立つなんてね。
でも、始めからやりすぎは禁物。
相手は奥手そうな堀君だから。
驚かしちゃいけない、自然に自然に。
休み時間に話しに行くのは1日1回程度から。
後はさりげなく、ちょっとした事を話すだけ。

 計画だけは完璧だった。


 そして、昼休み。
「千芽、ご飯だぞ!
今日はお外で食べたいな〜、なんて思っちゃったりしない?」
声を掛けてきたのは由果、お昼はいつも一緒に食べてる。
親友やってて正直な感想はなんかすごい奴。
「うん、良いけど?」
外は昨日の雨が嘘のようなきれいな晴れ空、土の上じゃなければ湿っているということはなさそう。
ぽかぽかしてるから外で食べたいと言う由果の主張も分からなくは無い。

 二人で校庭に出ると由果のお気にな場所へ向かう。
うちの高校は端の方に行くと何故か小さな鉄棒やタイヤの輪切りが置いてある。
けど小学校ではないのだから、たまにお隣の保育園の子達が遊びに来る以外は誰もこんなの使いやしない。
今は保育園もお昼の時間でここは閑散としている。
30分もすれば食後の保育園児であふれかえるかもしれないけれど。
とりあえず餓鬼共が来るまでは私達二人の空間。

「ねえ千芽、あんた堀狙ってるでしょ?」
外でお弁当を広げてちくわを頬張りながらの由果の第一声がそれだった。

私が頷くのを確認もせずに続ける。
「でも、悪い事は言わんから堀は止めときなさいな」
いきなりといえばいきなりの台詞にちょっとカチンとくる。
「なんでよぉ?
そりゃちょっとおとなしいかもしれないけど。
顔も性格も悪くはないよ」
「悪くないって……
あんたならもっと上を選り取りみどりさね。
それは私が保証したげる、あんたはもてようと思えばいくらでももてる。
でもそういうのに興味ないからあえて自分を抑えてんのも知ってる。
それをなんで今になって急に?
そもそもあんた今日までは堀と話しすらほとんどしたこと無かったはずでしょ。
それがなんでさ。
昨日あんたをときめかす何かがあったわけ?」
ここでニヤッと笑われる。
由果にやられても全く不快な感じはしない。
「ま、あったんでしょうけどねぇ、あんたのことだから。
ほらっ白状なさい、堀に何された?」
オヤジ化した由果がせっついてくる。
ここは自慢すべきかな。
「んふふ〜、あのね。
実は昨日傘を借りたのだ!」
「は?」
途端に由果の目が点になった。
さすがにこれは略しすぎたのかも。
「昨日ドシャ降りだったじゃない。
私は傘忘れてさ、玄関で困ってたの。
それを見かけた堀君が傘を貸してくれたのよ。
一本しか持ってない傘を貸してくれるあの優しさ。
さすがよね。
自分は一緒に帰る相手がいるから良いんだよって」
「昨日の雨で傘持って来ないのなんて、あんた位だよね」
私が言い返そうとするのを由果が両手を前にかざしてまあ待てのジェスチャー。
「言いたいのはそんなんじゃないんだわ。
繰り返しになるけど、悪い事は言わないから堀は止めとけ」
「なんでよ!」
「まあ黙って聞けって。
それ程仲がいいわけじゃあないが、私とあいつ中学が一緒でな。
同じクラスになったのもこれで三度目なのさ。
でだ、残念ながらあいつ既に彼女いるんだなこれが。
相手は1個下の幼なじみであいつが中二ん時からずっと」
「そん、な」
「やっぱし気づいてなかったか。
あいついつもお昼の休みに教室居ないだろ。
さすがにうち等も休み時間、他のクラスの教室に行く事はあっても下の奴の教室に行くなんて滅多に無いから現場に出くわすこともないだろうしな。
以前のあんたなら後輩に会いに行ってたかも知んないけど。
ちなみに、昨日あんたが言われた『一緒に帰る相手』ってのもきっとそいつだ。
あんたのおかげで昨日の二人は相々傘♪」
言われて想像してしまった。堀君が女物の傘を持ち女の子と二人仲良くそれに入っている姿を。
当然その相手は私じゃない。
「うぅ……」
「ま、そういうこった。
去年なら彼女はまだ中学にいたから頑張ればどうにかなったかも知んないけど、もう無理。
縁が無かったと思って諦めなさい。
ああいうのが好きなんだったら今度紹介しよっか?
あのタイプは需要がそう多くないからねぇ。
堀レベルの顔を期待しなければそれなりの奴は……」
「堀君みたいなの、じゃなくて堀君が良いの!」
大声でそう言ってから慌てて回りを見渡すけどそこは校庭の隅のこと、誰も気付いた様子はない。
「だから無理だっちゅうのに。
それとも彼女から無理やり奪う?」
「う〜ん、そこまではしたくないなぁ。
今の状況じゃ勝ち目なさそだし」
「賢明、賢明。
諦めなさい」

放課後
 相変わらず堀君は一人。
と思ってたら気軽な感じで誰かが話しかけた。
仲村だ。
仲村は同じクラスでバスケ部所属の男子。
由果の知り合いらしくて、由果と居るとやってくるので最近よく話す男子の一人。
他人とは話したくないモード全開の私だけど、それはあたしの勝手。
相手が由果と良く話していて、あたしも由果と話したいのだから一緒に居れば話すしかない。
初めはそんなきっかけだったけど明るくテンポが良いので話してると楽しい奴という事にすぐ気付いた。
とりあえずそのあと部活をしに体育館へ行こうとしているところを捕まえる。
「ちょっと仲村。
あんたなんで堀君と親しいのよ?」
仲村は一瞬びっくりしたような表情をし、すぐなんでもないようなそれに戻る。
「ん、俺が堀みたいなおとなしそうなやつと仲良くしてんのはそんなに意外か?
言っておくが恐喝したりいじめてるわけじゃねえかんな」
「別にそんなん聞いてるわけじゃないわ。
で、なんで?」
続きをせかす。
「そりゃ、中学の頃は同じ部活だったからな。
堀のやつ、二年の終わりに足痛めちまってそれからはすっかり文学少年してるからそうは見えんだろうが昔は結構上手かったんだぜ。
それにしても以前からあいつとは結構話してんだが。
今頃まで気づかないもんなんかな」
そりゃ、今までは見てなかったもん。
「そういうもんよ。
ところであいつの彼女ってどんなの?」
「あぁ?
う〜ん。
なんて言ったらいいかな。
ちょっと待て」
思い出そうとしてるのではなく、どう説明しようか考えあぐねているみたい。
「一年下の奴でちっちゃくておかっぱで眼鏡掛けてておとなしくて帰宅部。
そんで堀が幼稚園の頃からの幼なじみ。
簡単にまとめるとそんな感じかな」
「なにそれ。
堀君ってばそんなつまんない子が良いの?」
「はは、お前ならそう言うと思ったぜ。
だがな、そんなんでも結構器量よしの良い子なんだぜ」
「例えばどの辺が?」
「ははは、そりゃ本人に聞いてくれ」
そう言って仲村が指す先には堀君とめがねを掛けた背の小さい女の子がいた。
そう、学校中でも普通に会ってるの。
そりゃ学校一緒だもんね。
気付かなかったのは、昨日までまったく堀君に興味がなかったから。
この二年間、学校に流れるそういった情報網から出来るだけ身を離して生きてきたから。
でも彼女を見て正直に思ったことは、
「うそ、顔もスタイルも絶対私の方がいいじゃない」
「おま……
自分で言うか? そういうこと。
それにいくらなんでもお前と比べられちゃ相手がかわいそうってもんだ。
トータルでお前より上の奴なんてうちの学校全体を探しても居るかどうかだかんな」
仲村はべた褒めだけど、
「そんなこと無いわよ」
謙遜でもなんでもなくそう思う。
「あぁ、それにしても堀君の相手があんなのなんて。
良いわ、我慢しようと思ってたけど堀君は私が奪っちゃうから」
そうよ、私は良い子をやめたんだから。
「おい、お前。
マジか?」
咄嗟に反応に困った時に出てくる仲村のこの『マジか?』は結構好き。
微妙にアクセントが普通と違うのだ。
私もたまに由果相手に真似してたりする。
「あったり前じゃない。
仲村も協力してよね」
「なんか今日は妙に稜の奴を気にしてると思ったらやっぱりそう言うわけか。
俺としては人の色恋沙汰に首突っ込むのは面白いから文句はないがその行為が俺の親友に波風立てちまうってのは感心できんなあ。
それになんだかんだ言って幼なじみってのは強いもんだぞ」
諭すように言う仲村。
「何言ってんのよ。
私だってこんなの好きじゃないわ。
けどこれは自分の事だし好き嫌いは言ってらんないの。
なによ、幼なじみなんて単に小さい頃からつば付けてたってだけじゃない。
堀君には私の方が絶対まし!
だから、あんたが親友のためを思うなら私に付いた方が良いの。
仲村だって友達の恋のキューピットくらいやってくれてもいいでしょ」
「一応夕姫の奴とも、ああ夕姫ってのは稜の彼女な、知り合いなんだけどな俺。
でも、俺は藤井の『友達』ね。
はいはいわかりましたよ」
そりゃ仲村が中学の時から堀君と親友だったんなら彼女とも知り合いかもって想像くらいは着いてたわよ。
でもね夕姫さん、悪いけどこういうのは先に相談した方が勝ちなの。
中学の頃に活用していた今は大嫌いなはずの処世術が役に立っている。


 翌週から私と仲村と堀君の三人で堀君の机を中心に集まる光景が自然になった。
そうなると今までは見えてこなかったものが見えてくる。
堀君はやっぱ素敵♪
いや、今までもすごいとは思ってたのよ。
けれど、何ていうかね。
さすが中学までは仲村とバスケ部やってただけあるなぁっていう感じで。
それなら仲村もそうなんじゃないかって?
そうなのかもね。
でも仲村は会った頃に由果の彼氏、若しくは候補かと思ってたからそれ以来そういう目で見るのを止めちゃってるの。
だってさ、由果の机に寄ってくる男子なんて他に居ないんだよ。
由果は私のことを特別扱いしない。
それが好きで一年の頃から親友やってるんだけど、それって逆に言えば私と対等で居られるどころか私が頼っちゃえるほどの相手ということ。
由果と私をみんな敬遠して遠巻きにし、由果はその中で一人飄々としてる感じだったんだから。
 っと話がそれたわね、堀君の良さはそれだけじゃない。
堀君は見た目通りの知的な文学少年っぷりもかましてくれるのだ。
今の私にとって男女を問わず本の話を話題に出来る相手は久しぶり。
それだけでも堀君の友達になった甲斐はあったってもんよ。



「どうだ、堀は?」
「うん、期待以上よ。
このまま仲良くなっていってそのままゲットね」
こぶしを突き出すあたしに仲村は疲れたような表情をしてから両手を広げてお手上げのポーズ。
「……
どこをどう見たらそうなる?
あいつは夕姫にべたぼれじゃないか」
そう、唯一にして最大の問題。
三人で話しててもたまに彼女の話題になっちゃうのよね。
そういった時に堀井君の夕姫への想いなんかは嫌になるほど分かってしまう。
見ないふりしてたのに。
「なんか対策でも考えたか?」
残念ながら堀君の頭の中の私と彼女のランク付けにある果てしない差を一気に解消する術は思いつかない。
積極的過ぎるアプローチは失敗して避けられちゃう可能性の方が今はまだ高過ぎだもの。
「ううん、でも頑張る。
あれは絶対買いよね!」
ホントにそう。
「いや、買いも何も既に夕姫にお買い上げされてるんだけどな」
横で仲村が何か言ってるけど無視よ!



「そういえば……さ」
私が日誌を書いてる横で仲村は黒板を拭いている。
日直、うちのクラスは席の隣同士がペア組んで三周したらまた席替えってなってる。
要するに私の隣は今仲村なのだ。
教室前列に堀君は居るけどそこは目の悪い人優先。
私と由果、それに仲村はどちらかというと後ろの端が似合う。
「頭は学内5本の指、運動神経も中学の部活で折り紙つき。
顔も本人前にして言うのはすごい嫌だけど悪くないどころかかなり良い線行ってるし、性格は今は『あれ』だけどまあ普通にしてれば人気者たる資質を十分備え て る。
なのになんで生徒会系の仕事に就くわけでも部活に入るわけでもなく帰宅部なんてやってるんだ?
それどころか人との付き合い自体避けてるだろ。
ちょっとがんばりゃ元から成績は良いんだから、先公共のお眼鏡にかなって良い大学の推薦だって夢じゃないだろうに」
「性格が『あれ』って何よ?」
一応突っ込んでおく。
「私ね、他人が望む良い子を演じるのは得意なんだ」
で、唐突に真面目モード。
きっと人に話したら贅沢だとか言われて終わりそうなこの想い、それを仲村になら話しても良いかなって思えた。
「推薦なら面接だけで内申に関係無く大抵のとこに受かるくらい自信はあるの。
でも、それじゃだめ。
演じてる私、だから」
「なら、尚のこと生徒会や部活に入って一生懸命何かに打ち込んだ方が……」
私は自棄になってるように見えるのかもしれない。
ただ必死で逃れてるだけなのに。
「それもだめなの、それはもう中学の時に試したから。
理想的な会長に理想的な先輩。
相手は自分の理想を私に映してるだけで私は望まれるがままを演じさせられて。
誰も私を見てくれないの」
「思い込みだろ?」
「マジよ。
少なくとも私はそう思ってたし、それを窮屈にも感じてた」
「支えてくれる奴が必要なんじゃねえか?」
そう言ってにこやかに自分の顔を指差す仲村。
「そうね、堀君ならきっと適任よね」
そういうと日誌にまた顔を戻す、その瞬間の仲村の顔なんて見えたはずもない。
質の悪い冗談に付き合うほど愛想の良い方じゃないのだ。


 私が最近良く話すのは由果と仲村との三人、もしくは堀君と仲村との三人。
そんなこんなで仲村が一番良く話す相手になってきた。
中学の頃の私のネットワークを考えると信じられない程小規模だが、これが今の私が守りたいとまで思える関係の全て。
これでも一年の頃よりは広がってる。
ゆっくり広げていけばいいんだ。
広くてすれ違う人全員が私を知ってるような疲れるだけの関係?
そんなのにはもう何の未練も無い。

 堀君は普段はそんなそぶりは少しも見せないけれど、それでも足の調子が良くないためかほとんど自分の机から離れないので自然、堀君と話すときは私達が堀 君の机に行くことになる。
由果と話してるときには堀君は大抵本を読んで近づいてこないし、堀君と話してる時には由果も近づいてこない。
ただ、たまに堀君と話してると由果がこちらを見ていることがあるのに気づくが、その際の表情から何を言いたいかは分かる。
直接にムキになるなとかもっと回りを良く見てみろなんて言われたりもする。
ムカッとすることもあるけど、由果はそれ位で避けたくなる程度の相手ではない。
それに、由果が正しいのかもしれないのだ。
堀君はまだ私のことを好きになってはくれない。
まだ、じゃなくてずっと、かもしれない。
夕姫は堀君の話を聞いてた通りすごく良い子だった。
そして仲村。
仲良くなった。
最近じゃ休み時間に入る度に、外から教室に戻ってくる度に、つい仲村を探してしまうほど。
正直言って、私はいつも三人で居てたまに夕姫が混ざる親友という立場にかなり満足している。
無理して恋人という地位が欲しいかと聞かれたら、今は正直即答しかねる。
言われてる通りムキになってるのかもしれない。
でも、そんな簡単に諦められるものでもない。

 そう、仲村。
堀君以外にもう一人の気になる相手。
気になるといっても恋愛とかそう言った意味ではないはず。
はじめは仲の良さや不自然な感じから由果の彼氏だと思った。
でも、すぐに二人の間にある不自然さはそういったものではなく、共有しているものはほとんどないのにまるでたくさんあるかのように見せようとしているかの ような感じ。
嘘によって構成される虚構の関係。
嘘の共有が二人の絆の強さ?
自分で言ってても良く分からないけど初めは本当にそういった感じだった。
けれど、そういった不自然さは次第に消えて行き、仲の良い二人、そして私も一緒に居る、そういう事実だけが残った。
ただ、やはり由果と話してると仲村の話題が多くなる。



「ねえ、仲村と由果とってなんでそんなに仲良いの?」
「な……
何をそんな突然。
それに、仲の良さだけなら今はあんたの方が上ではないかね?」
をや、由果が慌ててる?
「今はね。
でも、1年の頃は仲村なんて話にものぼってこないし一緒に居るのも見たこと無いのに、今年に入って同じクラスになったら急にいつも一緒なんだもん」
「そりゃ、クラスが違くなったら親しくってもあんま会わないっしょ?
あんたなんか高校に進学した途端、友人関係全部切ったくせに」
悪いことをしたなとは思うけど後悔はしていない。
「それは、私なりに考えてのことだもん。
でも、由果と仲村見てると私が1年の頃に気づかないはず無いもの」
「あぁ、妙なところでしつこい、鋭い!
仲村との馴れ初めは省略っていうか話せないの。
これ言っちゃうと仲村に一生恨まれそだから。
確かなのは、今私等と仲村が親しいこと、それ以上になんも要らないでしょや?」
「じゃ、最後に。
由果は仲村のことどう思ってる?」
実際に口に出るまでこんなこと聞こうとは思ってなかった。
ホント、何で聞いたんだろこんなこと。
「ヲヲッ。
あんたがそういうことに興味を持つとは……
やるなっ、このおませさん!
安心しな、私等二人の間に限ってそういうのは一切無いよ。
そういう意味で聞いてるんでなければ。
ちょっと押しの弱すぎる気もするけれど、誠実で面白い奴だからある程度評価はしてるよ」
「安心しなって、言われても。
私には堀君が居るって」
胸を張る私、対する由果は疲れたような顔で。
「いや、居ないと思うぞあたしゃ……」



 そして、逆に仲村と話していても由果の……

「高橋の奴はお前が好きでしょうがないからな」
「へっ?」
「お前と会ったばかりの四月の頃のことをあいつはよく話してくれるぜ。
初めは同じクラスの変な奴に興味があっただけらしいぜ。
クラスに溶け込めないやつや溶け込もうとしないやつはたくさん居るけど、お前はそれとは更に違って感じたって。
中学からの友達は居るようでクラスまで遊びに来る奴だって結構居たのにそれに対しても異様なほどそっけない態度。
不思議に思ってそれとなく調べて見ると中学の頃は生徒会に部活にと大活躍だったらしいじゃないか。
それが高校に入った途端に旧友からも距離を置いて完全に帰宅部な一学生をしている。
かといって何か嫌なことがあった様でもない。
ただ自棄になってるというより必死に感じたって、元気に見えた次の瞬間すごく痛々しく感じたりで守ってあげたくなったんだとさ。
弱々しく感じる奴なんざ幾らでも居るだろうけどほとんどの奴はあいつにとっちゃ『だらしない』で終わるだろうからな。
『守ってあげたい』 あいつにそこまで言わせるなんて中々のもんだぜ」
「あんたこそどうなのよ?
由果が男にしろ女にしろあそこまで持ち上げてる奴なんてあんたくらいよ」
そう言って、由果が評価すると言っていた話をする。
するとめづらしく仲村が微妙な表情をする。
歯切れ悪く続ける。
「俺は、ただ、その、あることを、あいつに頼んでるだけだから。
高橋は俺じゃなくてその目的が対象のためになると思ってサポートしてくれてるだけさ。
今んとこ途中で止まって進んでないがな」
「ふ〜ん、変なの。
でも頑張って、あんたのことなら私は応援するから」
由果を頼り、由果がそれに応えるほどなのだからよっぽど大変なことなのに違いない。


 そんなある日の夜、由果から電話が掛かってきた。
いつになく慌てている。
「ねえっ、あんた仲村に堀との橋渡し頼んだってホント?」
「うん、だって堀君ってば他に知り合い居ないんだもの。
それに私、あいつなら結構うまくやってくれるかなって期待してるんだよ」
それを聞いて由果はなんだかすごく呆れたよう。
「妙に都合良く三人で話すようになったなぁって思っちゃいたけれど、まさか本当にそんなことしてたとは……
仲村も仲村だわ。
あのねぇ。
あんた仲村の気持ち全く気づいてないの?」
「仲村の気持ち?」
何のことを言ってるのだろう?
「ちっとも気づかれて無いじゃないの。
う、浮かばれないわね仲村!
あのねえ、あいつとは確かに中学も一緒だったりしたけど堀同様その時はそれ程親しくなかったのよ」
「だって、4月の初めからずっと仲良さそうにして」
「あいつに頼まれたのよ。
『高一の頃から気になってた奴と二年でやっと同じクラスになれた。
高橋さんと仲の良い髪の短い女の子で、出来ればそいつとは付き合いたいとも思っている。
良ければ仲を取り持ってくれないか。
ずうずうしい頼みだが聞いて欲しい』ってね。
あのスポーツ馬鹿みたいで元気だけが取り柄の仲村が滅茶苦茶不安そうな顔して頭下げて私に頼み込むんだよ。
あんたのことを疲れ果ててるみたいだって見抜いて、『俺が癒してあげたい』とか言っちゃってんの。
ま、あんたとは結構お似合いかなと思ったしどうにかしてあげたくなったねあたしゃ。
そいで、私とあいつは仲が良かったってことに無理やりしたてあげたのさ。
あんたといきなり近くで話せる様にね」
「な……
そんなの私にはばれなくても他の人。
例えば二人の共通の友人とかにはばれるかもしれないじゃない」
「う〜ん、ごまかせそうに無い相手二人くらいにはあたしゃばらして協力を仰いでるねえ。
仲村の方でも知り合いには何人かばらしてるかもしれんさね」
信じられなかった。
「私は、私は由果と仲村が……
はじめにそう思ってたから、仲村のことなんて全然。
考えても……」
考えてもいなかった?
本当にそう?
あたしは二人がそういう仲ではない事にすぐ気付いてたんじゃないの。
「私達が?
馬鹿だねえ」
「だって、二人ともいつも一緒にいるし。
仲村なんか由果と居るときはもろに由果にばっか話しかけてるし」
だから、考えないようにしてた。
仲村がそういう対象じゃないことにしておけば、一緒に居て楽しくても意識せずに済んだから。
「二人で一緒にいるんじゃない。
あんたと三人で一緒にいるんだよ。
仲村はあんたの前だとあがっちまってほとんどしゃべれないんだってさ。
笑っちゃうっしょ?
あんだけしゃべっておいてあがっちまうも何も無いって。
でも、あいつの話じゃお前さんに話しかけようとすると頭の中が真っ白になっちまって何を話してるかもわかんない状態なんだと。
それで私に助け舟を求めてくんのよ。
傍から見てる分じゃ私と居るときにしろ堀の奴との時にしろ、あんたと二人の時でさえ全然普通に話せてるのにな」
「そう、仲村の気持ちは分かったし嬉しいけれど。
それでも私が好きなのは堀君だから」
由果が頑固者、と呟いて軽く息をする。
「それだけどさ。
千芽、あんたホントに堀を好きなの?」
「どういうこと?
私が好きって言ってるんだから、本人が言うんだから間違いないよ。
それに堀君ってね、仲良くなって見ると今まで思ってたのと全然違うの。
おとなしい文学少年だけじゃなくて何でも出来るっていうか、すごく良い感じ」
繰り返し自分に言い聞かせてきた通り。
「あたしゃ違うと思うね。
既に築いていた完璧に近い地位を簡単に捨ててみせたあんただよ。
彼氏に望むものが完璧な人間のはずがない。
近くで見てる限り、あんたが望んでたのは自分を気に掛けてくれる奴だった。
今まで見えなかったからね。
何でも完璧にこなすせいであんたは助けを求める事が無いから。
気に掛けてても助けたいと思ってても、あんたにそれが届くことはない。
結果、どんどんそれに飢えたあんたは自分を気に掛けて心配してくれる奴を求める。
それが、傘を貸してくれた堀だと思った。
探すまでもないほど露骨にあんたの心に響いたからな。
そして、その後も優しく接してくれた。
違う?
でも、あいつに取ってあんたは特別じゃあないんだ。
あいつは誰にでも優しい。
そういう奴なんだよ。
でも、よく見てみなよ周りをさ!
ちょっとだけ良く見てやりゃ常にあんたに気を配ってるやつがいるじゃないか。
そりゃさり気なくだから気付きにくいかも知んないけどあんただけを見てくれてやつだ。
そいつはきっとあんたを幸せにしてくれるぞ」
いつになく真剣な由果の声。
「知らないもん!
なんなのよ、あいつは。
好きな相手に好意を持ってることすら気づいてもらえなくて、しかも逆に他の子との関係を誤解されるような奴。
その上、恋の掛け橋頼まれてやがんの」
頼んだのは私だ。
気付かなかったのも私。
悪いのは、私……
「う、そりゃ私もあんだけ頭下げて私に協力を求めた割には確かに消極的だなぁとは思っちゃいたけど。
その純情さがまたいいではないの」
由果の口調がまた気楽な感じのそれに戻る。
他人事と思っているの?
完璧なはずの私はたったそれだけのことにむっとした。
「なら、仲村は由果がもらえば?
良いわよ、別に仲村の助けなんてなくても、堀君くらい私が一人で落して見せるから」
「千芽!」
「由果も手伝ってくれないなら黙ってて。
由果も仲村も、二人とも絶対応援してくれると思ってたのに。
大好きだったのに」
何か由果が言ってるけれど、ガチャリそのまま受話器を掛ける。

 次の日、私は堀君に告白した。
私の計画とは全然違う。
少しずつ仲良くなっていって。
堀君に私の魅力、そんなものがどこにあるのか私自身でも知らないけど、に気づかせて。
せめて堀君から何らかの感触を得てから。
それからの予定だったのに。

 仕方が無かった。
私の想いを周りに分からせるにはそれしかなかったのだから。
私の想いを自分自身にはっきり示すにはそれしかなかったのだから。
堀君は思った通り困った顔をして……
もちろん振られた。
そんなのは覚悟してた。

 ただ、気になったのは
『君にはもっと似合う人が居ると思うよ。』
困ったような顔をして私の告白を聞いていた堀君からの一言。
由果はごまかせない友達には由果と仲村の計画を話したといっていた。
なら、仲村もごまかせそうにない相手には自分が誰を好きなのかとそのための計画について話していた可能性は十分にある。
仲の良い友達。
例えば堀君とか?


        放課後
「よぉ、堀に告ったらしいな。
お前にしちゃ随分無茶なまねしたじゃないか。
急がにゃいけない理由でもあったのか?」
親しげな雰囲気で話しかけてくる。
けど、騙されない。
「仲村、あんた私が振られて良かったと思ってるでしょ」
冷たい感情を篭もらせない声、泣かないための強がりの声。
それに仲村は本気で心外というような顔をしてくる。
「んな訳ないだろ。
俺が友達の不幸を願うような奴に見えるか?」
全然見えない、見えるわけが無い。
でも……
「嘘よ!
私知ってるんだから。
由果から全部聞いたんだからね!」
私の大声に反応したのか人垣が、遠巻きに出来てくる。
「藤井……」
「ばっかみたい。
なんで好きな女が他人が好きでも我慢できるのよ?
なんで私が他人とくっつくのを応援しようなんてするのよ?
なんで、
なんで私なんか好きになるのよ!」
分かっている。
これ以上無いほどの八つ当たり。
「藤井」
「うるさいうるさいうるさい!」
でも、それでも受け入れてくれると知っているから。
どんな無茶言っても仲村は、ほら。
「聞け! 藤井」
「何を聞けと言うの?
例えば、堀君が実はあんたの好きな相手を知ってたとか?」
滅茶苦茶だ、由果に堀君に仲村。
大切な人たちを、この関係だけは護りたいと思っていた相手を。
私が傷つけていっている。
「な、んで……」
「ハハハハ。
友達に仲取り持ってもらってたと思ってたら、堀君は逆に私と仲村の仲取り持ってるつもりだったとはね。
別に堀君が言ったんじゃないよ。
でも、今日の堀君の反応見てればそれくらい想像つく。
全て知ってたあんたはさぞかし楽しかったでしょうね?」
リヨウシテシマウ。
キズツケテシマウ。
仲村は優しいだけなのに……
止まらない。

 そう思っていた暴走はあっさり止められた。
仲村が私の肩をがしっと摑んでこっちをにらんできたのだ。
こんな感情のこもった激しい目で仲村が私を見るのは初めてで。
そうか、今までは正直に感情を込められなかったのか。
真っ直ぐ見つめることすら出来なかったのかもしれない。
想いが、ばれるから。
「俺が、俺がどんな思いでお前を手伝おうと思ってたかホントに分かんないのか?
本気で俺が悔しくなかったとでも思ってるのか?
それでもお前に近づけるなら良いと思っていたんだ。
最悪、側にいるだけでも良いと。
そりゃ正直失敗すればいいと思ってたさ。
俺のために、そしてあいつ等のためにな。
そんな俺が、どんな思いでお前の作戦に付きあってたか本当に分からないというのか?」
そこで仲村は私の肩をきつく掴んでいたのに気付いたのかごめん、と言うと手を離した。
私の肩なんて全然痛くないんだよ? 今までのあんたに比べれば。

 仲村はいつもの優しい仲村に戻って続ける。
「なあ、俺じゃダメか?
俺、お前のこと結構分かってやれるし一生懸命尽くすぜ。
それにほら、顔とかスタイルとか悪くないと思うし。
一応バスケ部じゃ三年が引退した後のレギュラー候補なんだぜ。
そりゃ、お前にはてんでかなわないかもしれないけどさ。
俺ほど好きになってくれる奴はあんま居ないと思うぞ。
な、俺で手ぇ打っとけって」
横を見ると一生懸命な仲村が見えた。
身振り手振りでさらに何か訴え続けている。
そう、ちょっと視野を広めさえすれば私をこんなにも思ってくれる人がいる。

 だからといってこっちが受け止めてやる必要は無い。

「そんなんじゃぜんぜん足りないわ」
「うわ、ひでえな」
ひつようはないが。
「私の彼氏になる奴は3年からのおこぼれでレギュラー狙うような奴じゃないんだから。
2年でもレギュラーやってる奴がいることくらい知ってるんだよ。
私の彼氏になる奴はそれに、頭だって私より良く無きゃダメよ」
気づいたら泣き出していた。
「そんだけすごくても全然威張ったところ無くて優しくって、お昼は私が作ったお弁当を一緒に食べてくれて……
それで、それで、私が困ってたらいつでも助けてくれて。
いつも私を見ててくれて」
泣きじゃくりながら必死で続けようとする私の肩を仲村がギュッとつかむ。
おでこを私のおでこにこつんと付けると
「お前の彼氏になるのは本気で大変そうだな。
けど大丈夫だ。
勉強以外はぜってえにどうにかする」
目を開けると涙でぼやけて、そして次第にはっきりと仲村の顔が見えてくる。
目を大きく開けてじっとこちらを見ている。
負けずに私もにらみ返す。
「ダメ、絶対に譲らない」
「そう言ってもお前自分の成績分かって言ってるのか?」
「うん、私の彼氏なら絶対抜かせるわ。
私も教えてあげるし」
「しゃあねえ、弁当と愛のお勉強会のためだ。
お姫様、こんなわたくしめですがこれからお姫様の横にいる事をお許し願えますでしょうか?」
例え将来の彼だろうとなんだろうと今の私の顔を見られたくなかった。
仲村の肩に顔を預ける。
「ゆるす」
そう言うとそのまま両手を仲村の背中に回す。
仲村の肩は気持ちよかった。



「こら〜!
私より良いとかそれ以前になんでこんなに点数低いのよ!」
夏休み前の期末テストのあと。
ノートも写させてあげたしお勉強会もやった。
なのに、仲村は……
「んなこと言ったって。
これでも250人抜きの快挙だぜ?
かばちゃんだって驚いてたってのに。
その上、夏の大会の選手枠にもちゃんと補欠じゃなく入ったんだぜ」
「かばちゃんじゃなくて河場先生でしょ!
ったく。
一学年400人ちょっとしかいないってのにそもそもどうやったら250人も抜けるのか私にはほんっきでわかんないわ。
良い? 今度のテストで最低50番に入れなかったら彼氏どころか絶交だかんね」

 仲村効果はすさまじく、また私の周りに集まる人は増えてきていた。
 私について何も知らない仲村の友人である彼等は私に何も期待せず、それゆえ私は私のままで彼等と付き合うことが出来た。
 もちろん今でも由果が一番の親友だけど。
 きっと、由果が仲村に期待していたのはこういったこと。

「50番以内ってあと100人も居るじゃねえか。
ふぅ、……任せろ」
本当はそんなの全然望んじゃいないんだけど、夏も二人っきりで勉強したい私の理由付けに仲村は妙に疲れた顔でそう頷いた。
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