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天風星苦


作:夢希
2-5 出会い

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「何でこんなに居るんだよ!」
宿を出てずらり騎兵隊さんを前にきっちり20秒だけ固まった後にランの叫びがこだまする。
今から鎮鋼へ出発するといわれて宿屋から出てきた途端にズラーッと騎馬隊が並んでてそれがいき なり自分に敬礼をしてきた、なんていう意味不明な状況におかれたら確かにまずは驚くのを通り越して呆然としてしまうかもしれない。
相手もそれが目的で数百人規模なのにこんなに静かにしてたのでしょうね。
ランを驚かすためだけに通行人が不気味がるのも構わず宿のまん前に騎馬隊をおいておくなんて。
そもそも、ここに来る時に馬の足音があたし達の所に聞こえないこと自体たいしたものだわ。
こんなの考え付いて実行する奴なんて一人しか知らない。
「そりゃ、お前さんに惚れこんだ有志たちが集まったんじゃねえの。
坊やも感激するなり感謝の意を表現するなりしてみたらどうだ?」
首謀者エンがまた適当言ってる。
だって、
「会ったことも無い、まだ何もしてないやつにどうやったらこんなにたくさんの人が惚れ込むって 言うんだよ!
そもそも、燕はこんなに人を連れてきてどうするつもりなんだ。
冗談にしても手が込みすぎてるぞ」
ランもエンが犯人と決めてかかっている。
エンはとぼけて、まるでランが何も考えてない奴のように話しを続ける。
「だから、何度も言ってるだろ。
鎮鋼にゃ季節の祭りというもんがねえから、こうして坊やみてえな要職が来るような時にゃ歓迎式 典が開かれるんだよ。
言ってみりゃお祭りの代わりだな。
そんな時に主賓の坊やが俺と2人だけで行きゃ盛り上がるもんも盛り上がんねえんだよ。
こんだけいりゃパレードだってなんだって出来るだろ?」
本当の理由は聞かなくても分かる、ランを驚かせると楽しいから。
「そんなの今まで一言だって言ってない。
初めて聞いた!
それにいつ着くかも分かってないのにお祭りなんて」
エンは真面目腐って答える。
「安心しろ。
報せは西安に着いてすぐに出してある。
何のために五日もここでゆっくりしてたと思うんだ?
この五日分に急いで行ったのだから二日ほど早く着くとして1週間。
ま、大丈夫だろうよ。
これからは遅れがでれば祭りの日取りにまで影響して、ひいては坊やの人気にまで影響が出るから そのつもりでな」
「ぼ、僕の知らない間に勝手に物事を進めるなぁ!」
ランの言葉通り目の前には2,300人からなる部隊。
エンの言葉を借りるなら西安大公家及び燕家の私兵有志から構成される二都騎兵隊。
『帝国では軍隊は廂、軍、営、都に分けられているんだ。それぞれ廂は十軍を、軍は五営を、営は 五都を管轄、末端の都には百人ずつの兵で構成されている』らしいわ。
もちろんこれは基本編成で実際は 兵士の数によって管轄する数は様々でしょうけどね。
で、これは帝国軍以外の大公家治安維持兵とかの諸兵にも当てはめられてるから覚えておいて損は ないはずよ。
本当に損は無いかって?
知らないわよ、私じゃなくてエンが言ってたんだから。

 ちなみに今騒いでる方がラン。
黒い髪に黒い目、少し薄めの肌色の肌、薄めと言ってもそれは私の肌を白色系種としたらの話で肌色系種の中では薄めというだけ。
背も私よりは高いという程度で典型的な大陸東部の人 間。
歳が私と同じくらいなのに実際は四つも上で21歳というのも東部の特徴。
ま、あたしだってこの東部にあっても実年齢の17より若く見られてるけどね。
主に体形的な理由で……
えっと、今はランの話よね。
着てるのが連合風の服型じゃなくて大陸東部系のゆったりとした衣型だから分かりにくいけれど盗み見た感じだと見た目より身体つきははるかにがっしりして る。
でも持ってる武器の方は見た目に合わせてるみたいで女の人が使いそうな軽めで房の付いた剣と短剣。
ここに来る途中で見た演舞とか言う見世物ですごく綺麗な女の人が似たような剣を使って華麗に踊ってたわ。
どちらも軽めの切る武器だから戦って骨に当たれば刃こぼれしてしまうし血糊で切れ味が落ちても扱いにくくなる、戦争には適さない武器ね。
ここに来るまでにこれで山賊と渡り合ってたらしいけれどほとんどは怪我らしい怪我もさせずに捕まえただけらしいから。
要するにそれは剣を切る武器として使ってはいなかったってこと。
騎馬を中心とするここいらで殺し合いをするのいなら武器の選び直しも必要なんじゃないかな。
一方のエンは大刀にしても斧にしても振り回して力で叩き割る豪快型。
3尺を越える柄の長い斧は騎馬戦でも威力がありそう。
ランだって弱そうって言うんじゃないの、これは完全に装備に拠っちゃうこと。
仮に1対1の試合でなら互角だったとしても騎馬での乱戦の中に居るとして長くもつのはエンの方なのよね。

 そのランたちとどうして旅してるのかって?
私が人攫いに捕まりそうになった所を助けてくれたからよ。
本当の所は鎮鋼で寝ている間に人買いさんに売られてて、しばらく一緒に旅してたけど楽しそうな大きな町来たから逃げ出したんだけどね。だって、馬車を飛ば してくれるから移動は早いけど手足は繋がれてるし観光だってさせてもらえないんだよ。
そんなわけで助けてくれたランにしたがって今度は再び鎮鋼まで戻っている所なの。
そのまま首都の京を目指す予定だったんだけど別に目的があったわけじゃないしさ。
付いていってる理由?
押しかけ女房に決まってるじゃない。
ランって可愛いし面白いしで見てて飽きないの。
もちろん私だって可愛いわよ。
そんな二人が結婚したらとっても可愛い新婚さんの誕生じゃない。
しかも片方は鎮鋼府副将でもう片方は連合の民、近所の評判になること請け合いね。
エンの話じゃこの国で一番難しい科挙の進士科にもトップクラスで合格したって話だし。
一見おしゃれには興味無さそうなのに着物とかしっかりしてるのは、大事にしてくれてる人が居る 証拠。
母親じゃ限界があるからきっと姉か妹でも居て世話してくれてたのね。
さすがにここしばらくの長旅で誰も世話してくれなかったせいか、かなり崩れてきてはいるようだ けれど、これからはあたしがびしっとやってあげるから問題なし。
それにさ、エンは笑ってるけどやっぱランってば私に取っては白馬の王子様なのよね。
 問題はランがまだまだその気になってくれそうもないことだけれど会ったばかりの外人といきなり結婚しようなんて考えるあたしの方がおかしいのは分かって るから。
もう一緒に住む約束は取り付けたんだし何年だって待ってあげる。
その間にこの体型がもうちょいどうにかなってくれればもっと効果的なんだろうけどね。


 で、さっきから話に出てるエンって言うのは、まあ簡単に言っちゃえばランの家来ってとこ かしら。
取りあえず土地にも詳しいしがたいも良いしでこの3人の中じゃリーダーみたいになってるの。
年の功ってやつよ。
で、今問題になってるのは200名からなる有志諸君。
立派な鎧兜で身を飾り、馬に乗って剣や槍を持つ姿は今から戦争といわれても充分戦えそうなほ ど。
確かに明日からこいつら引き連れての行進といわれたらあたしでも引くわね。行軍 ならともかく、つまりは祭りのパレードじゃない。
その上、私やランよりこいつら一人一人の方が見掛けだけは立派なんだもの。
きっと若造のランに少しでも箔がつくようにって考えだろうけど、こんなやつらに囲まれてランが 目立つかどうかはすごい不安だわ。
御輿にでも担がれて豪華な衣装でもつけるんならともかくね。

……そんなこと考えてたら、

御輿、じゃ無いけれども馬車が来たわ。
上には日除け程度に布が張られてるだけ、乗る人が御者も兼任するタイプ、と貴人が乗るようなも のではないけれども3人ぐらいは乗れそうでそこそこしっかりした作りのよう。
もちろん御者付き。
「何考えてるんだぁ!」
ランはまた暴れてるけれどこれからの長旅を考えると、これはちょっと良いわね。
「何してるのラン?
早く行くわよ」
あたしが馬車に乗り込みながら声をかけた途端に、ランとエンが固まる。
「わぁあああ、もうダメだ。
着く前から」
とか、
「嬢ちゃん、
なんで俺がフードとマント貸してやったかもう忘れたろ」
「あ!」
と思ってみると、やはり200人からなる有志諸君は困った顔をしながら動揺していた。
でも仕方ないよね?
これから鎮鋼に着くまでずっと黙ってるなんて土台無理なのよ。
フードを目深に被りマントで身体を隠した一言もしゃべらない謎の人物が実は美少女だったってのも悪くはなかったんだけどさ。

「ところでさ。
リィナは連合に住んでたんだよね。
どうやってここまで来たの?」
馬の上からランが声をかけてきた。
結局ランはせめて鎮鋼に近づく前は、とか言って馬車に乗るのを拒んだため馬車にはあたしが1 人で乗っている。
楽できるときには楽すべきだと思うんだけど。
ま、少しでも馬になれておきたいっていうランの気持ちも分かるからね。
御者の人には悪いけど降りてもらって代わりに私用の馬を貸しておいたわ。

 今は夜。
広い意味では央路の入り口に当たる西安-鎮鋼間はもう既に砂漠、その上に夏はもう終わったと 言っても秋と言うには早い時期だからまだまだ暑いのよ
。ただでさえ乾燥しているのにそんな暑さでお日様に照り続けられちゃ幾ら水分補給したってたまったも んじゃないわ。
と言ってもね、夜間はそれなりに寒くなるし何よりお日様が出てない。
しかも、人間は睡眠摂らないと始まらないからね。
だから、砂漠での理想的な行動パターンは昼間に眠って日が傾いたら出発の準備開始。
この時期の太陽は朝の四時から夜八時まで空にあるけれど傾いた太陽にもはやそれ程の脅威はない。
で、夜中歩き通して朝になって暑くなってきたらまたテントの準備をするって寸法。
特に暑い夏は暑っ苦しい昼間以外に移動。
昼間は休憩と言うのが相場。
 生活のリズムは狂わされるかもしれないけれど、あたしは夜の砂漠って結構好き。
ここはまだ帝国領内だからテントなんか用意しなくても小さ な町があって休憩できるし、隊商に着いて来た時と違って荷物もないから馬足も桁違い。
もちろん、央路を来た時はテントだったわ。
オアシスの町も数日ごとにあるけどそれは泊まるだけなんてちゃちなもんじゃない。
数泊を野外で過ごせるだけの物資の補充とそれを可能にするための気力の補充。
そうそう、あたしがここに来た方法をまだ話してなかったわね。
「隊商に混ぜてもらったの。
連合の東北領準都シェンタにさえ行けば隊商は幾らでも有るから。シェンタは連合 側の央路の入り口。
さすがに終点のここまで行ってくれるような馬鹿げたのは滅多に無かったから多少は苦労したけど ね」
「それにしても、良く嬢ちゃんなんか連れてってくれたなあ。
あっちの方がどうかは知らないけどな、こっち側の7区から9区なんて女子供を連れて行くようなところじゃない ぞ。
厳しい気候と地的条件だけじゃなく砂漠の魔鬼まで出るって言う話しだからな」
エンが割って入ってくる。
7区とか9区とか言うのは央路の区分のこと。
央路は計10区に分かれてて連合側が1区、帝国側が逆の10区からとなってて7区から10区は 厳しい砂漠地帯。
今の西安-鎮鋼間も第10区の一部として央路の端っこに当たるのよね。
終点はもちろん西安。
「砂漠の魔物?
身の程知らずな獣なら居たけど、そんなやつには会わなかったわよ。
どうせ盗賊や追いはぎにでも襲われたやつらがそう言ってるんでしょ」
「ふむ、言うねえ。
で、隊商の連中をどうやって言いくるめてここまで来た?
商人どもに身体でも売ったか?」
からかいと言った風でもない。
他にお前をここまで連れてくる利点が無いだろうって言わんばかり。
しかもその口調にさげずみはなくて、逆にどうしてもこっち側まで来たかったのならそれ も仕方ないだろうって顔をされてるから頭きちゃう。
「人聞きの悪いこと言わないで。
あんなやつらにあたしが身体許すはず無いじゃないの!
これよ」
と言ってちょっとした自慢の『会の腕輪』を見せる。
ランもエンも全くわからないといった反応。
「旅人の会の法術師、BB(ダブルB)の腕輪よ! 」
叫んだ所で気付く。
「といっても連合のこと知らないんじゃ分からないか。
要するに、連合じゃそこそこ使える法術師ってことよ。
それもあっちを出た三年半も前の話、今はもっと強いって自信はあるわ」
さすがに今度は2人の反応が違ったわね。
「ほう、ってことは嬢ちゃん法術が使えるのか。
坊やもこりゃ良い拾い物したな」
今にも口笛を吹きそうなエン、比べてランは
「い、異術師!
リィナ、怪しげな妖術の類は帝国では禁止されているんだよ」
信じらんない!
ランの視線にはあたしを疑うようなものが含まれていたのだ。
「さすがにエンは分かってくれたみたいね。
にしても。
ランってばそんな目で見るなんて最低。
エン、説明したげて」
「嬢ちゃん落ち着きな。
ランも、そう邪険にしたもんじゃないぞ。
連合では法術ってのは本当に普通のことなんだ。
俺達は例え論客じゃなくとも言葉を話せるし、兵士じゃなくてもナイフぐらいは使う。
同じことなんだ。
連合じゃかまどに火を入れるのにも法術の火を使う。
それは自然なことで連合の民であれば誰でも出来ることだ。
で、嬢ちゃんみたいな法術を専門的に使う人が法術師だ。
ま、俺自身実際に見たことのある法術なんて生活レベルのてんで大したこと無いもんなんで嬢ちゃ んがどの程度つえ えのかも実際にはまるでわからねえけどな」
しょうがないな、ちょっと実例してあげるか。

「おい、ラン逃げるな。
嬢ちゃんも早くそれをしまいな。
馬がおびえる」
ランが法術の火と聞いても納得できないだろうと思って火を出してあげたのだけれどどうやら失敗だった みたい。
ランったら驚いて逃げ出しちゃった。
それにしても、出したのは指の先にちっちゃくで、ランプにも負けるほど。
この程度の火で馬がおびえるはず無いじゃない。
慣れてないって困ったもんね。
「それじゃリィナは央路の隊商の用心棒としてここまで来たの?」
やっと戻ってきたランが聞いてくる。
「そだよ。
でもね、実際に使った法術は護衛より逆にあいつらへの威嚇の方が多かったかな。
あいつら良い年したおっちゃんの癖にまだ子供なあたしに欲情するもんだから困っちゃうの。
 ま、あたしってば魅力的なのは間違いないわけだから。
文字通り砂漠にオアシスって感じなのかしら。
だからって優しくオアシスやってるわけにもいかないじゃない、それで憂さ晴らしと警告もかねて 砂丘に向かってドッカ〜ンとね。
あたしってば実は無茶苦茶強いんだから」
「まだ子供?
砂丘ぶっ飛ばしといて言うことはそれか。
ま、胸見てる限りはそうだけどな」
エンはそういうとじろじろとあたしの胸を見た。
少しでもいやらしけりゃ何か思うかもしれないけれど、そんな子供の成長を願う親みたいな顔され てちゃね……
それより、何の気も無さそうなランの方が、
キシシシシ、つられてあたしを見てる。
「うーん、そんな薄いの着て、下もひざまで見えてるよ。
ちょっとはしたないんじゃないかな。
リィナ、それは隊商の人たちが悪いって言うより誘ってるよ」
フードもマントもばれてちゃしょうがないから脱いでいる。
日焼けも熱射も法術で防いでいるあたしには怖くはない。
それにしてもランってば天然すぎっ。
「ここははしたないじゃなくて可愛らしいと言ってあげるべきとこなんだがな」
横でエンが呆れている。
誰のためにこんな服着てあげてると思ってるのよ。
「ばっかじゃないの?
あたしがあいつらの前でこんなの着るわけ無いじゃない。
これは連合から持ってきたとっておきの服よ。
人がせっかくランに見せてあげようと思って着てあげたのに」
横では「せっかくって言われても……」とかランがぶつぶつ言ってる。
そりゃ、あたしが勝手に着てると言われたらそれまでかもしれないけれど、女の子がオシャレしてるっていうのに。
こりゃ、普通の子じゃ落とせないはずだわ。
あたしも頑張らないと。
取りあえず隣で忍び笑いしてるエンを御者用の鞭でなぶる。
エンはそのまま笑いながら話し掛けてきた。
「ということは、こっちについた後に裏切られてあいつに売られたんだな?
何で売られる時に法術使わなかった?
そもそも、何で売られたんだ?」
「あーもう、その話はしないで。
今思い出してもいらいらするわ!
あいつら、鎮鋼着いたらあたしが寝てる隙に契約成立させて売りやがったの。
そりゃ護衛は往復の約束だったのに鎮鋼で突然帰らないって言い出したのはあたしだけれど、その 契約不履行を盾にあたしを売るなんてとんでもないと思わない?
あのきつい央路を共に越えた仲とは思えない仕打ちよね。
朝起きたらみんな居なくなってていきなり奴隷扱いされてたあたしの気持ち分かる?」
「突然護衛を放棄された奴の気持ちなら痛いほど分かるぜ。」
「でもさ、法術使えるんなら法術で倒して逃げればよかったんじゃないの?」
あぁ、相手の全く知らないことを一度に教えるってすごい疲れる。
「人相手に法術を使うと法王家の監査システムににらまれちゃうのよ」
「リィナならそれも逃げられるんじゃないの?」
小さな火を見せただけなのにいつ の間にかランにとってあたしは無敵になっていた。
「法術を監視するシステムなのよ。
相手も法術を使えるの!
しかも確実にあたしより上手いのをよこすはずよ」
あたしが必死で説明してもあたしの打つ手が無かった時の気持ちの半分も伝わらない。
ま、西安か京にでも連れて行ってもらった後で逃げた方が楽かなって考えてたのは事 実だけどね。
「ふーん、そうなんだ。
監査システムね、良く分からないけれど法術師も大変なんだね。
憂さ晴らしで砂丘を破壊してるって聞いたし、その上リィナの性格でしょ。
僕はてっきりストレスも何も無く行く先々を破壊して周るはた迷惑な人かとばっかり思ってた」
「そ、それは誰も居ない、人工物も何も無い空間に向かって直接的に破壊を導くだけだからであっ て。
砂漠以外で理由も無しにそんなことやったら一発で強制帰国よ。
それに、そんなことするやつが居たら秩序とバランスが崩れちゃうじゃない」
「普通のやつは砂漠でもんなことしねえと思うがな」
「しょうがないでしょ。
帝国は遠いし、昼の砂漠は暑いし周りの商人はうざいし。
あんなことでもしてないと頭がおかしくなりそうだったわ」
「じゃあさ、リィナは何でこっちに来ようと思ったの?
わざわざ大陸を横断してまでこっちに来なきゃならないような用事でもあった?」
ランは好奇心旺盛。
しょうがない、いっちょ頑張ってみますか。
「パパのさ、」
「?」
あえて弱々しくはじめる。
「パパの口癖だったんだ。
旅をしたい、遠くへ行きたいって。
出来るなら大陸の反対側まで。
でもあたしが大きくなるまではって我慢してて、いざあたしもいっぱしの法術が使えるようになっ て旅人の会にも所属してさあ旅に出ようって時に、パパは流行り病にかかっちゃって。
そのまま……
ホント、儚いものよね。
なーんちゃって、冗談よ。
ってラン、なに泣いてるのよ」
「うぅ、お父さん可哀想。
それで君が代わりに旅に出ようって思ったんだね。
……って冗談?」
「こんなお涙頂戴な話でホントに感動しないでよ。
これは隊商の人たちに聞かれて適当に作ったお話。
ラン、そんなに人が良いとホントに苦労するよ」
「やんちゃな嬢ちゃん拾ったりな。
ま、良いじゃねえか。
坊やにゃこのくらいで居てもらわねえとこれから先つまらんぜ」
「僕は遊び道具じゃないぞ」
「それは初耳だな」
「恋人や友人とのコミュニケーションをそんな風に言わないの」
「あぁ、もう何がなんだか!」
不幸を感じているのはラン一人。

 周りでは護衛の方々の忍び笑いが絶え間なく続いていたりする。
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