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すさのを

第二章


作:夢希

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 こうし てすさのをは高天原から避け追われて出雲の国肥の河上の鳥髪という地へ降りました。
ちょうどその時に箸がその川を流れ降りてきたのですさのをは川上に人が居るのかと考え、探しに上って行って訪ねました。
そこには老夫婦が居り、乙女を囲み泣いていました。
すさのをが
「お前たちは何者なんだ?」
と尋ねると、翁は
「私は国津神の大山津見の神の子で名は足名椎、妻の名は手名椎、娘の名は櫛名田姫と申します」
と答え、すさのをが
「お前らが泣いてる理由は何だ?」
と尋ねると再び
「我が娘は元々は八人居りました。
それが、越に住むヤマタノオロチが毎年訪ねて来ては一人ずつ喰らっていくのです。
今はそのオロチがまもなく来ようという時期なので泣いているのです」
「そいつはどんな姿形なんだい?」
「その目は赤くほおずきのようで身体一つが八頭に八尾を有しております。
またその身はひかげと檜と椙(スギ)を生やして谷八つ、峡八つに渡る長さ。
その腹は全体にわたって常に血で爛れております」
聞いてすさのをは
「つまり、お前はすでに娘を諦めているわけだな?
それなら娘を俺に供えないか」
と聞き、翁はそれに
「畏れ多いことです。ですが、某は貴方様の御名すら存じておりませぬ」
まあ、当たり前ですね。翁もまさか相手が
「俺は天照大御神の同じ父母より生まれた弟さ。
つい今さっき天から降ってきたところさ」
つまり私と同格の神であるとか、そんな神がいきなり歩いてやってくるとかは思いもしなかったでしょうから。
「そうであるのであればとんでもない事です。
もちろん娘は奉りましょう」
それを聞いてすさのをは娘を爪櫛に変えると自分の髪に挿し隠し、足名椎・手名椎の神に次のように命じました。
「八塩折りに醸した酒を用意しな。
それと垣を作り巡らしてそこに八つの門を用意するんだ。
そうしたら門には桟敷を結って一つづつ酒船置いてそこに酒を持って。
そしたら準備完了だ、お前らは待って様子を見てな」


 老夫婦が命じられたままに退治の準備をして待っていますと、ヤマタノオロチがやって来ました。
けれどそのまますぐに船ごとに自身の頭を垂れ入れるとその酒を飲んでいくと、そのまま飲みに飲んで酔いがまわるとその場に伏して寝てしまいました。
そこで、すさのをは帯びていた剣を抜くとオロチを斬って散り散りにしたので、
肥の河には水の代わりに血が流れました。
さらに中程の尾を斬った時にすさのをの剣の刃が欠けました。
これは怪しいぞと思ったすさのをが剣の鞘で裂いてその中を見てみると都牟羽の太刀がありまして。
まあこれは神にとっても一級品の宝物であったのですがそこはそれ、すさのをですからとっとと姉上に献上してしまいましたとさ。
彼は子供みたいなものですからね。
母上に会いたいと駄々をこねて、姉上との勝負に勝ったら頭にのって、それで姉上に嫌われたと思ったら今度は反省したふりして大人しく他の神々に従うかのよ うに地に降りて、そして今度は機嫌を直してもらおうと貢物。
ま、何にせよこれが草薙の剣(臭蛇の剣)です。

 そんなわけでヤマタノオロチを倒して櫛名田姫を得たすさのをは助けた櫛名田姫との宮を出雲に造ろうと場所を探していましたが、今の須賀まで来ましたとこ ろで
「何だか分からないけれど、ここに来たら気分が清々しくなったぞ」
と言うと宮を作って居座ったので、地名が須賀とかなってしまいまして。
その宮を作った際に雲が立ち昇ったからと作った歌は次の通りです。

 八雲立つ 出雲八重垣
 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を

私訳:八雲の立ち昇るこの出雲の地に私は立派な垣を作ろう。
妻を籠もらせ、そして身籠らせるために八重垣を作ろう。
そんな立派な八重垣を。


 宮が出来上がるとすさのをは櫛名田姫の父親である足名鉄を呼んで
「お前を俺の宮の宮長に任じよう」
と言って、名も稲田の宮主須賀八耳神と名づけました。

 宮が出来、宮長も決まりましたのですさのをはさっそく櫛名田姫と寝所でやることやりまして。
生まれてきたのが八嶋士奴美の神です。
他に櫛名田姫の祖父に当たる大山津見の神の娘、まあ櫛名田姫の叔母ですが、その神大市姫をも娶っていて彼女とも子を二柱作っていますね。
これ等のうち櫛名田姫との子八嶋士奴美の神の直系の子孫がおおくにの主です。
知りませんか?
ではその話はまた別の方からどうぞ。
すさのをなんかに聞かれてはいかがですか。
え、すさのをはどこに居るのか?
母いざなみの治めます国、根の国の堅州国に決まっているではありませんか。
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