私は一変して笑わない子になった。 私の笑いの源はお兄ちゃんだったんだから。 それが亡くなればどうなるかなんて分かりきったこと。 お兄ちゃんを殺した人達は捕まったそうだけど少年法がどうのこうので何も出来ないって『お父さん』はふんがいしてた。 そんなのどうでもいい。 お兄ちゃんが帰って来ないんならこの手で一人ずつ引き裂いていっても全然足りはしないんだから。 私も『お姉ちゃん』も、そして誰もお兄ちゃんの部屋には入れない。 『お母さん』が閉鎖した。 お葬式の後、お寺から帰って来るとドアと窓はセメントで塗り固められていた。 セメントよセメント、信じられない。 「放って置いたら汀はここに篭ってきっと出てこないから」 あの時は『お母さん』に掴み掛かろうとして『お父さん』に止められたけど、多分この処置は正解。 実際閉鎖されて無ければ学校にも行かず閉じ篭ってたことだろう。 お兄ちゃんの部屋を閉鎖されると家の中に私の居場所は無くなった。 私の部屋はここにきた時からずっとただの荷物置き場、私が要らないと言ったから机すら置かれて無い。 一人でそんな部屋に篭っていると考えるのはお兄ちゃんのことばかり。 それも何故か滅多に無い機嫌の悪い時のお兄ちゃんを思い出したり殺した人達に殴られているお兄ちゃんを想像したりで良い事なんて無かった。 そしてしまいにはお兄ちゃんを殺した人のことを…… ウナムナ そんなのは学校から帰った後だけで十分。 どんなものであれお兄ちゃんの願いを無下にする気は全く無い。 テレビの部屋? いつもお兄ちゃんとテレビを見ながらお兄ちゃんの手で遊んでいた場所。 お兄ちゃんの匂いが残っている気はしたがいつもお兄ちゃんの帰りを待っていたあの部屋で帰ってこないお兄ちゃんを待つのは恐怖以外の何物でも無かった。 お兄ちゃんが間に立ってくれたから『お父さん』や『お母さん』と上手くやってこれたのだ。 いまだに二人との間は親子という感じじゃない。 お兄ちゃんが居たからそんな必要なかった。 私のお兄ちゃんとお兄ちゃんの親、それが私達のたどり着いた奇妙な間柄を表す言葉。 結局学校に行った方がお兄ちゃんが居ないというのを少しでも考えないでいられた。 奈央ももこも私がどれだけお兄ちゃんを好きだったか知ってるから何も言わない。 慰められてどうなるものではないこと位知っている。 きっちゃんはおろおろしてる。 結局話し掛けては来ないからこれもどうでもいい。 問題なのは晶君。 常に私を心配そうに見てて機会があれば話し掛けようとして来る。 一人で居たらお兄ちゃんのこと考えちゃうけれど、だからといって誰かと話したいわけでもないのに。 雰囲気が読めないのかしら。 その上、この前私のことをお兄ちゃんに囚われてるだなんて言ったのよ。 幾らなんだってそんな言い方無いと思わない? でも、本当は違う。 知ってる。 これまでの関係が教えてくれる。 晶君はそんな鈍い子じゃない。 お喋りが大好きという子でもない。 むしろ今までは主に私が話して晶君は聞き役に回ってた。 晶君なりに心配してくれている。 それは分かるけどもやっぱり邪魔に思っちゃうのはしょうがない。 私には完璧なあのお兄ちゃんが付いてたんだから。 『お姉ちゃん』はお兄ちゃんが居なくなった後も毎週木曜日は家に来ていた。 誰と話すわけでもなくテレビの部屋でぼーっとしていつも帰ってた時間になるとお邪魔しましたとだけ言って帰る。 『お兄ちゃんに囚われている』悔しいけれど他人を見てると晶君の言ってたことが分かる。 『お父さん』も『お母さん』も、きっと私だって囚われている。 でも、それはしょうのないこと。 逃れる方法があるのなら教えて欲しい。 そんなある日のこと。 閉まるまで図書室でただ時間を潰して、夕方遅くに学校から帰ろうとして昇降口で靴を履き替えようとしたら私の下駄箱の前に晶君が居た。 偶然なんていう時間帯でも無いし晶君の態度もそんな感じではない。 何か言おうとしてずっと待ってたのだろうけれど相手にする気分じゃない。 さよならとだけ言って通りすぎようとしたら晶君は洋服のすそを掴んでそれを止める。 「もう前みたいに笑ってはくれないの」 そう言った晶君は本当に寂しそうな顔をしていた。 「無理」 返事はしても会話をするつもりは無い。 「お兄さんのことは分かるけれど汀ちゃんにはたくさん友人が居るんだから」 友達がどれだけ集まってもお兄ちゃんの代わりには成れやしない。 「私にはお兄ちゃんが必要なの。 お兄ちゃんが誰も居なかった私を守ってくれた。 お兄ちゃんが『お父さん』と『お母さん』を私と繋げてくれてた。 お兄ちゃんが居てくれたから笑ってられた。 なのに…… 友達なんかじゃ全然足りないの」 でも、そう言われて友人達のことを考えた瞬間、確かに少しだけ楽になった気はした。 「じゃあ、僕をお兄ちゃんと思って僕を必要としてよ」 さっき言ったのに、自分は友達に入って無いつもりなのかな。 「無理」 晶君も嫌いじゃないけれどお兄ちゃんとは全然違う。 必要として依存するには足りない。 誰もお兄ちゃんの…… だけど晶君は名案と言う感じで突然嬉しそうにこう言ってきた。 「ならさ、僕が汀ちゃんを必要とする。 汀ちゃんが笑っているのを、汀ちゃんが話し掛けてくれるのを、汀ちゃんが幸せなのを。 そんな汀が僕のそばに居るのを僕が必要とする」 「それが何なのよ!」 「お兄さんが居なくなったのなら汀がお兄さんの変わりになれば良い。 必要とされる人間になれば良い。 少なくとも僕には汀が必要なんだ」 こっちが赤くなりそうなくらいの台詞。 だけど、 「それが何なのよ」 同じ台詞をもう一度繰り返す。 お兄ちゃんが居ないのならそんな台詞も要らない。 強い拒絶、ここまですれば諦めると思ったけれど晶君はしつこかった。 一瞬黙った後でこう返してくる。 「汀ちゃんはお兄ちゃんが居なくなって嫌だったんでしょ。 それと同じ。 僕も汀ちゃんがいつも辛そうにしてるとそれが辛いんだ。 僕だけじゃない、奈央ちゃんももこちゃんもきっちゃんも。 汀ちゃんがお兄ちゃんを必要としてたみたいに僕達も汀ちゃんを必要としてる。 お兄ちゃんが居なくなって寂しいのは分かるけどいつまでもそんな寂しそうにしてないで。 僕が必要としている。 笑ってよ、ねえ」 そんなの関係ない! そう叫ぼうと思ったけれど言葉が出なかった。 その代わり、涙が出てきて。 「お兄ちゃんが居ないのなら汀がお兄ちゃんの分も頑張らないと。 お兄ちゃんの恋人も悲しんでるはずだよ。 両親だって。 悲しんでるのは汀だけじゃないんだから。 頑張って、僕が支えるから」 支える? 私を必要としてるんじゃなかったの。 心配そうに私をじっと見ていた晶君が突然嬉しそうな顔に変わる。 私は泣きながら笑っていた。 お兄ちゃんとの思い出は楽しい記憶。 忘れる必要なんか無い。 パパとママとの楽しかった記憶。 辛い思いをしたくないばかりに忘れてしまった。 お兄ちゃんとの楽しかった日々 二度も同じ失敗を繰り返す必要は無い。 家に帰ると今日も『お姉ちゃん』はテレビの部屋に居た。 いつも通り生気の抜けた顔で何をするでも無くただ時間が過ぎるのを待っている。 やるべきことは分かっている。 いつもやっていた通りにやれば良い、簡単なこと。 でもその相手がお兄ちゃんじゃない、それだけで足がすくんで動かない。 「どうしたの?」 いつまでもテレビの部屋の入り口にそうして立っている私を不思議に思ったのかそれでもどうでもよさそうに『お姉ちゃん』はそう聞いてくる。 その言葉に解放された私は『お姉ちゃん』の元へ歩み寄りその隣にちょこんと座ると『お姉ちゃん』の左手を黙って掴むとそれで遊び始めた。 お姉ちゃんは黙ってされるがままになっている。 そんな『お姉ちゃん』の肩がたまにビクッて震えるのが分かる。 私はもう三年生。 お兄ちゃんの手をいじるようになってからもう数年、私の手はずいぶん大きくなってると思う。 そして『お姉ちゃん』は女の人、大きさの余り変わらない人の手をいじるのは難しかった。 そうじゃない、お兄ちゃんの手をいじるときは何も考えず無意識にやってたのに『お姉ちゃん』の手は私を受け入れてくれてないし私も『お姉ちゃん』をちゃんと認めていない。 お互いの心の通じないまま手を重ねても空しいだけ。 それでも私はそれを続ける。 いつか通じることを、何かはあることを信じて。 『お姉ちゃん』は黙ってされるがままになっていた。 その日も、次の週も。 でもしばらくたったある日、『お姉ちゃん』は突然はっとしたように顔を上げると「止めて!」と叫びながら私の手を振りほどいた。 「どうして?」 私は尋ねる。 「どうして?」 お姉ちゃんの目を見据えてしっかりと言葉を紡ぐ。 「思い出させないで」 お姉ちゃんの悲痛な叫び、それを残酷な私は確かめる。 「忘れたいの? お兄ちゃんのことを思い出したくないの? どうして? ここに来てるのは思い出したいからじゃないの?」 お姉ちゃんの綺麗な顔に涙が溢れる。 「あんたに何が分かるのよ!」 『お母さん』が何事かと様子を見に来た。 「分かるよ。 私もパパとママのこと忘れたかった。 思い出さないようにしてた。 そしたら本当に忘れちゃった」 お姉ちゃんがヒィッと声を漏らす。 「非道いよね。 大好きなパパとママだったのに、もう大好きだったことしか思い出せないの。 だめだよ忘れちゃ。 お兄ちゃんとの記憶は悲しい記憶? それとも嫌な記憶?」 お姉ちゃんはしばらく私をじっと見てから呟く。 「あたしの負けね。 篤志の取り合いにも負けて、今度はいつまでも立ち直れないでいるあたしの方が篤志のこと思ってるとほくそ笑んでたら相手はもっと先に行っちゃってたんだものね。 全く嫌んなっちゃうわ」 ? 何を言ってるんだろう。 私の表情を見たお姉ちゃんが笑う。 私に向けて初めて見せる親しみを込めた笑み。 「分からない? そうよね、自分のことで一杯だったものね。 あたしはいつまでもあなたに勝てなくて、篤志を独占できなかった。 あたしと二人きりの時でさえ篤志はいつもあなたのこと話してたわ」 でも、お姉ちゃんが家に来るようになってからお兄ちゃんと私の時間はものすごく減った。 何でそんなに自嘲するんだろう。 一人の人を二人で分け合うならどちらも時間が足りないと思って当たり前、私も勝ったと言うつもりなんて無い。 「あなたはあたしにお兄さんを奪われたと思ってるかもしれないけれどそれはあたしも同じ。 他の人に負けるつもりは無いけどあなただけは別だったわ」 そりゃ、私はずっと前からお兄ちゃんの妹なんだから。 「あたしは中学・高校と篤志と同じだし篤志の部活でマネージャーもしてるの。 篤志との時間は私達ほとんど変わらないのよ。 でも、いつまで経っても妹に勝てなくてそして結局は負けたまま。 怒るべきところなんでしょうけど怒るべき相手はもう居ないし」 まただ、お姉ちゃんは私に何か引け目を持っているように話す。 でも、何をそんなに哀れんでるの。 「気付けと言っても無理よね。 それにあなたは何も悪く無いわ。 ただ篤志はあなたにだけ遺言してあたしには何も残してくれなかった。 そう、それだけのこと」 ああ、この人は苦しんでたんだ。 死んだ人を責めちゃいけないと思いつつそれでも何故、と問わずにはいられなくて。 でも、いくら問い掛けても死んだ人は何も応えてくれなくて…… 思う。 惨めなまま何で自分だけこうして残っているのかと。 でも…… 「でもね、最近こうも思うの。 篤志はわざと何も言わなかったんじゃないかって。 俺はお前のことを何とも思ってないからお前も俺のことでいつまでも苦しむなって。 都合が良すぎる解釈だって?」 思いきり首を振る、そんなことない。 お兄ちゃんはいつだって周りの人のことばかり考えてた。 そんなお兄ちゃんが黙ってたのならそれは黙っているのが一番だと思ったから。 私にだけメッセージ?それは私だけがまだ子供だったから。 「そうよね、あなたも篤志のことを良く知ってるのよね。 ひょっとしたらあたし以上に。 しょうがないから苦しむのはもうお終い」 そう笑って見せたお姉ちゃんの顔を見て私は初めてこの人に優しい人と言う印象を持った。 お兄ちゃんが好きになった人なんだ。 嫌な人のはずが無いのに。 「さようなら、あたしの妹。 殺しても殺したりない程憎くて、 そして、 愛しても愛し足りない程可愛い、 あたしの妹。 もう二度と会うことは無いでしょうね」 お姉ちゃんが笑って手を振る。 寂しそうな笑み、きっともう来ないつもり。 そんなお姉ちゃんに私も笑って手を振る。 「さようなら。 でもひょっとしたらまた偶然会うかもしれないよ。 例えばまた来週この部屋で。 忘れないでね。 お兄ちゃんが居なくなってもお姉ちゃんはあたしのお姉ちゃんなんだから」 お姉ちゃんはそれからもしばらくは寄ってくれたけど次第にそれは減っていった。 それでも、たまに相談に乗ってくれたりして私のお姉ちゃんであり続けてくれた。 お姉ちゃんは立ち直った。 少なくとも前に向かおうとはしてる。 後は『お父さん』と『お母さん』、そして私。 こっちはもっと簡単。 みんなやりたいと思ってることは同じ。 でも意地っ張りが一人頑張っちゃっててその望みを打ち砕いてた。 本当は自分もその望みに加わりたいのに。 夕食の後、一旦自分の部屋へ戻った私は勇気を出して再びテレビの部屋へ戻る。 お兄ちゃんが亡くなってからはお姉ちゃんの来る日以外は夕食後自分の部屋で過ごすのが習慣になっていた。 「どうした? 何かおねだりしたいものでも出来たか?」 だから急に降りてきた私を見て『お父さん』が茶化すようにそう聞いてくるがそれに私は小さく頷く。 「うん、私、家族ごっこはもう止めにしたい」 その言葉に『お父さん』と『お母さん』が凍りつく。 しまった、言い方を間違えちゃったかもしれない。 「あ、あのね。 違うの……」 しどろもどろに何か言おうとするけれどなかなか良い言葉が出てこない。 しまいにお母さんは泣き出してしまった。 「泣かないでよ。 違うの!」 どうにも止まりそうにない。 お兄ちゃんを亡くして義理とはいえ今度は娘にまでこんなこと言われたらしょうがない。 でも違うの。 続きがあるんだから! 「『お父さん』と『お母さん』じゃなくてパパとママになって欲しいの」 とにかくそれだけを伝えたくて大声になってしまった。 途端にお母さんだけじゃなくてお父さんまで泣き始めてしまう。 「ねえ、二人とも……」 「うん、うん。 聞いているとも。 今までで汀から聞いた中で一番嬉しい言葉だ。 聞き逃すものか」 お父さんはソファーから立ち上がると私を抱きしめてくれる。 良く考えると今までこうして抱いてもらったことすらなかった。 その心地よい感触を楽しみながら返事を待つ。 「それで」 いつまでたっても返事を聞けないどころかそのまま話を終わらせようとするお父さんとお母さんに私は不安になってそう尋ねる。 「それで?」 お父さんとお母さんが何が聞きたいのと言う感じで聞いてくる。 恥ずかしいけれど今言わないともう絶対に言えない気がしてその質問を口にする。 「それで、パパとママって呼んでもいいの?」 最後の方は恥ずかしくって怒るような口調になってた。 パパとママは一通り笑い転げた後でもちろんだよって言ってくれた。 お兄ちゃんは居なくなった。 私の全てだったお兄ちゃん。 けれど私は『お父さん』、『お母さん』そして『お姉ちゃん』と以前より良い関係を築けたし、何よりまた笑えるようになった。 どうしてこんなに頑張れたのかって? 実は全部晶君と相談して決めたんだ。 授業が終わると私と晶君は別々に図書室に行って隅っこの机で勉強したり眠って下校の時間の少し前まで待つの。 下校の時間になっちゃうと学校に残ってる人が一斉に帰り始めるからそのちょっと前。 晶君ってば頭良い。 二人で帰り始めた頃は私が落ち込んでたせいもあって晶君も真剣だったけれど。 最近思う、晶君っておもしろい。 面白いって言っても面白おかしいんじゃないの、絶妙な言葉遣いやどきりとする表現できちに富んでるって言うんだっけ? 今までどうして気付かなかったのかって不思議に思ったけど晶君とは二人で居ると良いんだ。 三人以上じゃ駄目。 奈央やきっちゃんでも晶君は無意識に怖がって普通になっちゃう。 ううん、ひょっとしたらただ二人なら良いんじゃないのかもしれない。 私と二人だから、きっときっちゃんと二人じゃ駄目。 晶君って本当はこんなにすごいんだよぉってみんなに言いたいけれど一緒に帰ってるのは二人の秘密だから何で知ってるのか理由を言えないのよね。 「ねえ、それじゃお姉ちゃんからも両親からも必要とされるようになったんだ。 おめでとう、大成功だね」 「うん、そうなんだけどね。 実は分かったことがあるんだ」 「分かったこと?」 「例えばね、晶君は私が必要?」 良く考えると恥ずかしい台詞だったかもしれない。 晶君が真っ赤になってるのを見て始めてそれに気付く。 どうやったら晶君に私が感じてる気持ちを伝えられるかに一所懸命で全然気付かなかった。 「うん、必要だよ。 汀が居ないと図書館の後でこうやって一緒に変える相手もいないしね」 返事は嬉しいけれどそれは嘘。 私も晶君も一緒に帰る友達くらいは幾らでもいる。 だから下校の時間より少し早めに帰るんじゃない。 「でもね、私も晶君を必要としてるの。 晶君が居ないとこんなに一所懸命になる勇気なんて無かったよ、きっと。 他の人もそう。 お兄ちゃんみたいな『誰か一人』じゃないけどみんなが私を必要としてくれて私もそのみんなから助けれられてるのを感じるの」 晶君はそれに頷く。 「そうだね、本当につながってると感じる時は相手から必要とされてるだけじゃなくて相手のことも必要としてる時なんだよ。 きっとお兄さんも岬ちゃんのこと必要としてたんじゃないかな」 「お兄ちゃんが私を必要としてた?」 そんなの今まで考えたことも無かった。 でも、お姉ちゃんはお兄ちゃんがいつも私のことを楽しそうに話してたって言ってた。 そうかもしれない。 無条件に私に優しくしてくれるお兄ちゃんも良いけれど、私を必要としてくれてるお兄ちゃんを想像してみた。 そのアイデアはとても素敵だった。 それからしばらくして奈央ちゃん達に私達が二人で帰ってるのがばれちゃった。 本当はずっと前から気付いてたらしいけれど、 「気付いてたのかですって? ええ、えぇ、ずぅぅうっと前から気付いてましたとも。 二人して毎日毎日図書室に篭もってて。 それで誰も気付かないと本気で思ってたのかしらね。 でもねえ、お兄さんが亡くなって以来一緒に死んじゃったような顔してた汀とそんな汀見てこの世の終わりみたいな顔してた晶君が二人して元気になっていくのを見てたら誰にも邪魔は出来ませんて。 この二ヶ月、私はもこときっちゃんで我慢してました」 とは奈央ちゃんの言。 それからおもむろにハンカチを取り出すと泣き真似をする。 「奈央、その言い方はちょっと非道いと思う。 私は汀達の代わりじゃないもん……」 とはもこちゃんの言。 それから私達は四人かきっちゃんも含めて五人で帰るようになった。 五年 五年生のクラス換え、奈央ちゃん達ともまた同じ。 晶君やきっちゃんも同じクラス。 みなしごと言語障害児に仲間外れ? 五年生の問題児一大集合じゃないの。 仲が良いから別々にして問題になったらPTAがうるさいし。 武田先生もお気の毒にね。 でも今の所は何も問題らしい問題を起こして無いのが救いかしら。 聞いたことのある声、確か何かの先生だったと思う。 誰、誰だっけ? でも問題は無い。 誰が何と言おうと、どんな理由にせよ私達を一緒にしてくれてるのならそれはむしろ好都合。 |
感想等は感想フォーム又は
yukinoyumeki@yahoo.co.jp
にお願いします。