ジェドに何かをされてからどれほど時間が経ったのだろう。 別段気を失ったわけではない。 それどころか実際には時間などまったく経っていないのかもしれない。 だが空間と時間の認識、そしてそれらから統合される情報が僕にパニックを引き起こしている。 一瞬にして吐露の門から理解不能な場所へと跳ばされた? 『ありえない』と。 これも法術なのだろうか? 周囲には何も無い真っ暗な空間が広がっていた。 真っ暗でありながら自分やリィナとジェドの存在は何故かはっきりと分かる、そんな空間。 とりあえずジェドの方を見るとジェドも僕の方を見て微笑んだ後、わざとらしく手を曲げ軽く頭を下げた。 暗闇の中、どこからも灯りなぞ差し込んではいないはずなのにその動作ははっきりと『見えた』。 「無の間へようこそ。 ここは連合内においても特に機密性の高い会議などに使われている特別な空間です。 まぁ、自分で造らない限り何も用意されて居ないところが難点ですけれどもね。 さて、椅子でも用意しましょうか」 ジェドのその声に応えるように椅子と机が現れる。 「それでは法術監査システムによるプリンセス・トラスタマラ・アンジェリーナの簡易法術裁判を執り行います」 現れた椅子に全員が座った所でジェドはそう切り出した。 「これ以降の発言は全て『公正遠話』によって 全大陸法術監査システムに通信・記録されます。 さて、リィナ。 何か言いたいことは?」 「ランと一緒に居たい」 ジェドの質問に間髪おかずに、リィナは即答する。 「ですから先ほどから私が説明しているし、自分でもどうなるのかくらいは分かっていて使ったのでしょう。 個人としては史上まれに見る大殺戮を行おうとしたのですからもっと反省してもらわないとそれこそ送還や謹慎だけではすまなくなりますよ」 ジェドは聞き分けの悪い子に噛んで含めるようにそう言うが、聞き分けの悪い子の方はもちろんそんなの聞いちゃいない。 「でも、ランと居たいの! あれはランが死んじゃうかあたしが延帝国から送還されちゃうかという選択肢だったから死なない方を選択しただけ。 ランが生きてたら今度は一緒に居たいと思うに決まってるじゃない」 当たり前のようにそう主張するが、かなりわがままな理屈だ。 「おじ様とお姉ちゃんとの結婚に関して、あたし結構役に立ったと思ってるわ。 法王家の跡継ぎが領王家、しかも『あのトラスタマラ家』に婿養子入りするなんて確かに前代未聞だったものね。 それなのにおじ様はあたしの恋路の邪魔をするの?」 「まったく、何を言い出すのかと思えば…… それは私事でしょう。 もし私事に走って規定を犯して良いのであれば私はずっと前にあなたを連合へ戻していましたよ。 あなたはまだ幼いしセフィーリアはあなたを想っては泣き心配しては泣き、しまいには何故か私が攻められる始末」 壮絶な家庭の事情が一瞬垣間見えた気がしたが本人は漏らした本音に気付いていないよう。 「そして、今さっきのあなたの行いを見る限り私の判断は間違ってはいないと思いますね。 もっと大きくなってから誰かと供に行っていればあなたは違反を犯すことなく諸国漫遊ができ、これからの一生を連合に縛られる事も無かったでしょうに。 トラスタマラ家がまた、とか言われる方の身にもなってくださ……」 さっきからのジェドの話し振りを聞いている限り、リィナのトラスタマラ家というのは連合において忌避されている家系のようだ。 差別されている、というのともまた違うようだが。 ジェドは言いすぎたと思ったのか口を噤み、案の定リィナは不機嫌さ全開になった。 「ふんっだ。 これだから法王家は嫌いなのよ。 あたし達だって頑張ってるのに自分だけはるか高みに居て守るべき存在としてあたし達を見てるんだから」 「またそんな言いがかりを。 守るだけの存在ならセフィーリアとの結婚なんてもとより考えもしません」 そして少し真剣な口調になる。 「それに、仮にそうだとしてもそれは仕方の無いことでしょう。 あなた自身まだ若く、その上あなた方一族は力をほとんど持ってはいないのですから」 リィナが力無し? けれど、リィナとの会話を思い返す限りリィナは自分を連合の中で見ても強い部類に入る法術師と見ていた。 「それでも普通の法術師なんかよりずぅっと強いわ! 裏切り者に『王家の血』を盗まれたのが、あたし達が『彼』の子孫なのがそんなにいけない事なの? そんなずっと前の名前しか知らない裏切り者のせいであたし達はいつまで下手に出てればいいのよ!」 「産まれる以前のことで、あなた方に落ち度があったわけでもありません。 別に下手に出る必要はありませんよ。 ですが、『彼』を出した家の者として、『彼』の事を忘れて欲しくはありませんね。 あなたも央路を通ったのなら見たのでしょう。 『彼』の作った国を。 王家の血の力を使ってしたい放題」 「ええ、見たわ。 それどころか何日か滞在もしたわよ。 とぉおっても平和そうな国だったわ」 「『彼』の家系を絶対視して言いなりの民はもはや家畜でしかない。 力によって天候さえ左右してしまえばもはや創意工夫による発展は無い。 そこにあるのはただ停滞のみ。 『彼』という羊飼いに飼われた羊達はただただ平和に過ごして、そして50という歳に出荷される。 長年の思考操作によって脳の固定化を行われた彼等はもう私達の言うことに耳を傾けることはない。 不自由なく牧歌的なのが無条件に良いわけではないのですよ」 そこで言葉を区切る。 僕に今の話の詳細を教えてくれる気はなさそうだ。 「さて、このままここでだらだら続けても仕方が無い。 続きは家に帰ってからゆっくり話そうか。 セフィーリアも君の帰ってくるのを楽しみにしているはず。 狼君、君もこれ以上訳の分からない話を聞かされても混乱するばかりでしょう? リィナちゃん、君も知っているだろうけれど、もとから判決は決まっています。 この裁判はただの手続きでしかありません。 これから読み上げるのは監査システム局からの裁きです。 多分あなたの考えている通りのものですよ。」 ジェドはそこで一言区切ると厳かな口調で続けた。 「プリンセ・トラスタマラ・アンジェリーナ。 あなたのしでかそうとした事を考えると罪は大変重い。 しかし、二年に及ぶ連合外での生活においては常に規定に従っておりこれが初犯の上、状況からして君は極めて悲観的な状況を打破しようとして若さゆえの過ち を犯し たと考えられる。 その上システム局員、私の事ですよ、の働きにより深刻で手遅れな事態は回避された模様。 引き起こされる事態を予測する能力を有しながらもあえて法術を施行したことからもわかるように年齢がら苛酷な環境である連合外に出れるほどには精神的に成 熟しきれていなかったのは自明である。 また、連合内に居さえすればこの様な困難な選択を強いられる状況に出会う事も無いはずであった。 よってプリンセ・トラスタマラ・アンジェリーナには罪に対しての罰として、及び今後このような事態を起こさないための対策として連合への強制送還を命じ る。 また、帰国後三年間は謹慎に処す。 以上が法王家監査システム局からの処分です。 これ、未遂で終わったからこそなんですよ。 私が止めてなかったら面会禁止の軟禁処分で期間だって一桁は変わってしまったでしょうから。 本来ならもっと感謝してくれても…… ああ、泣かないでくださいリィナちゃん。 あなたのためにもこれが一番良いのです。 さ、彼とお別れをする時間くらいならあげますから」 ジェドの言うとおりリィナは泣いていた。 悔しそうに頭を垂れて声を殺しても漏れてくる嗚咽。 両手はぎゅっと握られてたまにその右手が乱暴に顔をぬぐう。 「それじゃシステムとの通信を切って」 しばらく沈黙が続き、やっとのことで呟いたリィナの声がそれだった。 「リィナちゃん、それは出来ないよ。 リィナちゃんの立場が微妙だからこんな特殊な形式をとらせてもらっているけれど、これは一応システム内では裁判として扱われているんだから」 「だってシステムの人間って、結局はあたしの知り合いじゃない! そんな人達にはこのお別れなんて絶対に聞かれたくない、見せたくない。 本当はジェドおじ様にだって出て行って欲しいのよ」 ジェドはちょっと首をすくめると頷いた。 「しょうがないですね。 ちょっと聞いてみますから。 …… ん、良しっと。 許可が下りましたよ。 これでここは完全に遮断されました。 私も耳をふさごうかな?」 「ううん、いいわ♪」 ジェドのあくまで優しそうな声に対し、リィナの声は極端に明るくその顔は小悪魔といった風情。 自分の策が成功して絶対的な優位にたった時の表情。 やられた、泣きまねだ。 昔からの知り合いのはずのジェドもリィナのこの表情の意味は当然知っているようで、まだ何をされたわけでもないのにおびえている。 「それよりもジェドおじ様、あれは何かしら? 今さっき自宅に転送しようとしてたそれよそれ。 いくらシステムの人間といっても窃盗はさすがにまずいわよねぇ」 リィナがそう言うとジェドのすぐ側でゆらり、空間がゆらめきそこに漆黒の短剣が現れる。 見間違うはずも無い。 「僕の短剣。 いつのまに!」 腰に手をやるとやはり普通の短剣の方しかない。 慌てて『手を伸ばす』と現れた短剣を取り返す。 リィナはニッと笑ってVサイン。 「さぁてっと、聞かせてもらいましょうか? どうしてそれを盗もうとしたのかしら? そもそもさ、いくらあたしのこと心配してチェックを入れてたとしてもシステム局からの連絡を聞いて法術の発生を察知して吐露へ転移、その後にあたしの 『死』の封術相殺な んて いう高難易大型法術を連続で施行するにはいくらジェドおじ様でも時間が足りないはずなのよね。 なら、おじ様自身が私たちのことを監察していたと見ないといけない。 でも、あたしがピンチという程度じゃおじ様がわざわざ見るとは思えない。 さっきだって私が封術使うなんてあの間際まで思ってもみなかったでしょ。 なら、おじ様が見ていたのは私以外の何か。 ランがその魔剣を使った時からチェックしてたんでしょ。 あの戦闘自体は局員の誰かが観察していてその報告でも聞いたんでしょ。 そりゃ欲しくもなるわよね、あたしですら知らないような作用で働く魔剣なんですから。 でも、だからといって勝手に盗んだりしちゃいけないんじゃないかなぁ? と言ってもさ、あたしもジェドおじ様を訴えたところでお姉ちゃんが悲しむだけでなんら利益がないのよね。 ね、どう? 黙っててあげるからあたしの事も見逃して♪」 一気に捲くし立てるリィナ。 「ですから、私事と仕事を混同するようなことは出来ませ」 あくまで強気に押し通そうとするジェドにリィナは今度は楽しそうに泣きまねをする。 「お姉ちゃん悲しむだろうなー。 身内から犯罪者が一気に二人、しかもその罪状が窃盗罪と法術を用いての大量殺人未遂? お姉ちゃん三時間位は固まってるだろうなー。 で、その後お姉ちゃん怒るだろうなー」 怒るといった言葉にジェドがぴくりと反応する。 「セフィーリア、怒りますかね?」 絶望的な表情。 「怒るよー。 私のは話をしたらちょっとは同情してもらえるかもしれないけどジェドおじ様のはただの出世欲だからねー。 でもさ、あたしが連合に戻って話さなければいいだけのことなんだから。 全てを上手く収める方法はあるんだけどね?」 上目遣いのリィナ。 ジェドは両手をひらひらさせる、完全に降参と言う格好だろうか。 「しょうがないですね。 ですが、私自身の名誉のために言わせてもらいますがその短剣のような武器を法王家は知らないわけではないんですよ。 それは古代武具と呼ばれていましてね。 あぁ、こちらでは宝具と呼ばれてましたっけね。 誤解しないで下さい。 宝具が全部これっぽっちの力と言うわけではないのですよ。 宝具の威力は精神力の消費と大きく関係しますから。 あなたのは威力が控えめな変わりに消耗もほとんど無い。 たぶん初期型、もしくは習作でしょう。 強いものは中位の神魔ですら相手に出来ると言われてますからね。 精神崩壊と引き換えに、ですが。 現在のところ収集できたものの管理はゴットルプ家が行っています。 ですが、リィナちゃんも実感したでしょう。 法術で調べようにも全く反応してくれなくてね。 天下の法王家が発掘品や骨董品の山の中から一々手に持っての探索ですよ。 それでも、発動してくれないことには分からないわけですから。 一旦回収しておきながらむざむざ手放してしまったり、予想外の効果に惨事を起こしかけたことなども一度や二度ではありません。 今回だってリィナちゃんをチェックしていたからたまたま気づいたのであって、先ほど紅狼君が使っていなければいつ気付いたことやら…… で、どうです紅狼君。 その短剣を私に譲ってくれるならリィナちゃんは私が責任を持って帝国に残れるようにしましょう」 突然、話をこちらに振ってくる。 「それは、私事じゃないの?」 自分の収集している武具を手に入れるために一度決めた処分を曲げるというのだから。 言ってしまえば賄賂と一緒。 「違いますよ。 監査システムが法王家の古代武具調査に協力してくれた君とリィナへの恩赦として今回確定した強制送還を減刑するのですからね」 「でも、そうしたらこれは渡さないといけない? 父上の遺品なんだけどな」 リィナに取り返してもらった短剣をもったいなさそうに見る。 遭難、そうでなくとも帝国を離反した父上だ。 もう戻ってくることはあるまい。 「いけませんね。 リィナちゃんの釈放はそれとの交換という形になりますからね」 リィナはすがるような、期待するような目で僕を見ている。 「そこを少し曲げて、せめて僕が不要になるまで」 「ですから、それではあなたが無くしてしまったときに困るじゃないですか。 ひょっとしたらあなたが売ってしまうかもしれませんし…… 私は常にあなたを監視しているわけには行かないのですよ」 「しょうがないな」 そう言うとリィナににっこり笑いかけてから続ける。 「それじゃリィナ、すまないけれども連合に帰ってもらえるかな? それで連合に帰ったらこのジェドさんを窃盗容疑で訴えて」 「なっ!」 「だって一旦あなたは僕の気づかないように剣を奪って隠してますよね。 連合ではどうか知りませんが帝国では盗む意図を持って相手のものを奪った場合、例えその後で取り返されても窃盗未遂ではなく窃盗です。 僕は連合には行けませんがリィナが証人ですしシステムとの通信とやらを再開してもらえばそれで僕が証言しても良いですよ」 「私を脅すつもりですか?」 「さあ? だってさ、今の話し聞いてる限りこの剣の所在が掴めて数十年後には連合のものにすると所有者が認めるだけでも幸運だと思うのにそれ以上高望みするのだもの ね」 リィナもこれに乗ってくる。 「ラン、あたしに任せて。 たかが剣とは言っても法王家が血眼になって探すほどの剣よ。 剣の価値を徹底的に調べ上げて法廷の下に晒して最低でも実刑は勝ち取ってあげる! 仮に執行猶予が付いたとしても、どちらにしろゴットルプ法王家の長子にして次期トラスタマラ領王家当主候補様に『前科』が付くのよ! しかもトラスタマラ家の三女に訴えられて。 さらには、法王家が極秘に捜索する宝具の存在というおまけ付き。 これはものすごく楽しいスキャンダルになるわね」 リィナはすごく楽しそうだ。 ここに残るためという以上にジェドを困らせるのが相当に嬉しいらしい。 「分かった、分かりましたよ。 ですが、その短剣を頂かないことにはこちらとしてもリィナちゃんを放免することを上に納得させられないのです。 なので、その短剣は私が預からせてもらい後ほど代わりりそれなりの武具を貸与するというのはいかがでしょう。 どうせこれから兵を率いる立場になるのなら短剣では使いどころが限られてしまいますよ」 それは分かっている。 だからこそ鎮鋼では賈から槍の指導を受けているのだから。 ジェドはこれ以上譲る気はないだろう。 「それで良いよ。 代わりの武具については槍なんかの武器がいいな」 「了解しました、その点は考慮しましょう。 それでは、君はその剣の所有権をゴットルプ法王家に譲りゴットルプ法王家は君に代わりの武具を貸与する。 貸与期間は君の生存中。 その代わりにリィナちゃんは強制送還を厳重注意と監視強化に減刑する。 これで良いですか?」 「うん、リィナは?」 「監視強化って期間は?」 「それは帰ってくるまでですよ。 どちらにせよその短剣の持ち主である狼君自体にトレースはかけさせてもらいますから」 「分かったわ。 でも出来ればついでにあたしのランク制限も少し緩めてもらえないかしら」 「必要かい?」 「だって、ランの魔剣を見たって事はあたしがあの時使った法術も見たって事でしょ? 光の紐とカッターのあわせ技はばれた以上絶対制限に加えられちゃうんでしょ」 「当たり前です。 ランク一種のはずの光の紐を飛ばしてその後でその紐自体にランク二種のカッターを掛けるとは。 係りの者から報せを受けた時には驚きましたよ。 良くもまぁあんな組み合わせを思いついたものですね。 元々『カッター』自体ランクを高めろと言う声が高かったものですし、どちらにしろあの技は今後早急に使えなくなりますよ。 ランクの件は一応申請はしてみますけれども確実なところは分かりませんからね」 「お願いね。 あ、おじ様のこと疑うわけじゃないけれど通信は盗み聞きさせてもらうからそのつもりで♪」 「まったく、どこまでも付け上がりますね。 では、通信を再開しまするけれどもその前に。 リィナちゃんは彼に身分ばらして良かったのですか? さっき大威張りでばらしてたようですけれど……」 「え、あ? あ。ぁああああ! ラン、あたしがさっきなんて言ったか覚えてる?」 「えと、トラスタマラ領王家がどうとかトラスタマラ家の三女とかって」 不意に聞かれたことなので誤魔化せなかった。 「ぁ、やっぱしばれてる!」 「それじゃ、通信再開しますよ」 それからしばらくジェドは遠話と言うのをし、リィナは座って僕等を睨んでぶつぶつ呟いている。 チラッと耳に入った言葉が僕とジェドの悪口のようだったので慰めるのは止しておいた。 「さて、と。 終わりましたよ。 紅狼君の申請した短剣を古代武具と認定。 所持者から所有権を獲得。 代えの武具は後ほど選定、本人の承諾を得て決定とします。 また、トラスタマラ領王家三女のアンジェリーナを本人の希望により強制送還から実務労役に変更。 臨時システム局員として本人が東の帝国から離れる意思を表明するまで古代武具提供者紅狼君の監視、警護、及び代えとして提供する武具の紛失を防いでもらい ます。 それに関連して警護のための実務的、及び本人への報酬的な意味合いを込めてエンジェリーナの法術ランク制限が旅人の会一般三種からシステム局一般四種へと 変更。 ただし提供者紅狼君は職業柄、延帝国と他国との争いに巻き込まれる自体は極めて多いと思われるがそれに関する直接的な援護はこれを禁じ、違反した場合には 今回提 示した以上の刑によって報いてもらいます。 お二方は以上でよろしいでしょうか?」 こちらからの提案は全て盛り込まれているはず。 「一般四種? 攻撃法術が一つも入ってないじゃない。 せめて特殊くらいにはならない?」 「リィナちゃん、自分がここに呼ばれたわけが本当に分かってます? ここまで制限を緩めてあげたのは、出来るだけこの範囲内に留めて攻撃法術は使わないでねっていう願いが込められているんですよ。 絶対に無理です!」 「ちぇっ、しょうがないわね」 リィナがうなずいたようなので僕もうなずいた。 「両名からの了承を確認いたしました。 処理番号722132は受理されます。 さて、ゆっくり話したいところですが実はまだ仕事中なものでね。 それではこれでお別れです」 「ばいばーい♪」 「さようなら」 「あぁそうそう。 今度セフィーリアに子供が生まれそうでね」 手を振りながらジェドが突然爆弾発言。 「お姉ちゃんに! あ、ということは当然ジェドおじ様の子供でもあるわけか。 おめでと。 お姉ちゃんにもあたしが祝福してたって言っといて」 「ふふ。 甥になるか姪になるか。 ともかくリィナちゃんもこれで立派なおばさんだねぇ。 狼君を逃したら行き遅れとか呼ばれてしまうかもしれませんよ」 それだけ言うと返事も聞かずに消えて行った。 いや、僕等がこの空間から消えて言ってるのか。 馴染んだ土の感触が足によみがえって来る。 「ジェドおじ様め。 花の17歳、まだまだ乙女の私を捕まえて。 おばさん? 帰り際の最後の最後に嫌味かい!」 リィナは悔しそうにしているがもはや後の祭り。 町から遠ざかって行く敵の騎兵達を呆然と眺めていた町の人たちも僕達に気づいたようだ。 リィナは疲れた、とか言って座ると僕に寄りかかって眠り始める。 僕も疲れた、彼等への説明は明日にしよう。 しゃがんでリィナと背中を合わせると、僕も眠りに落ちる。 たくさんの人達が歓声と共に近寄ってくるのを感じながら。 |
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