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無限の日


作:夢希
1−3.止マリシ世界

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「えーっ、慧ちゃんだけじゃなくて船木さんまで来るの!
ふふふ、それじゃ今夜は押鮨状態ね。
よ〜し、朋君頑張るんだぞ♪」
翌日の研究室、慧と船木も来ると知って真紀は喜んでいた。
「普通はそこで自分も手伝うとか言うもんじゃないのか?」
船木が呆れたようにそう言う。
確かに、夕食の支度をする朋を真紀がほぼ完全に手伝おうとしないのは私も前から不思議に思っていたこと。
手伝うとしても鍋に水を入れたり器を用意したりで自分で買ってきた食材に触ることは絶対に無い。
例えどんなに下手でも野菜の皮を剥くなど手伝えることくらいはあるだろうに。
だが、そんな疑問に真紀は責められるなんて心外と言う表情で反論する。
「ふふん、私と直樹は働きたくなくて手伝わないんじゃないんだからね」
やはり何か理由があるのだろうか。
「お願いだから手伝わないでって言われてるんだぞ」
それだけ料理が下手ということだろう。
真紀は嬉しそうに話している。
が、かなり自慢されたくはない理由だ。
「男の倉橋はともかく……
お前等が結婚した時のこと考えると少し怖いな」
台所は要らないはずだ。
「もうそんなの言われ慣れてるもんね〜っだ。
私って結構器用な方だと思うんだけどな?
とにかく朋君、みんなが来るんだったら絶対に鍋よ、鍋!」

そして




「イヤァーッ!」

いつものように倒れた真紀を連れて帰る。
多少は楽しかろうと、結局は変わらぬ日々。
明日には楽しかったということさえも忘れているのだろう。
 慧が帰ってきて船木も加わった。
だが、何も代わりはしなかった。
それも当然。
だからこそ朋は繰り返さざるを得なかったのだ。
真紀のために無限の日を。
 そんな朋をいつも見続けてきた船木。
止めさせたくなったのも分からなくはない。


「それじゃまた明日な」
「その前に、少し寄っていかない?」
真紀を家に帰した後のこと、そのまま帰ろうとしていた船木を慧が呼び止める。
「どうした?」
「昨日まで木都管理区のど田舎行っていたのだけれど、そこでちょっと気になることがあって」
「場所はどうする?」
「もちろん朋の家」


「で、結局どんな収穫があったんだ?」
朋の家に戻ると急かすように船木が尋ねる。
「私の研究に関して言えばほとんどハズレ。
同じ地方で同じ様な話ばかり聞いていたのだからしょうのないことでしょうけどね。
ただ、一つだけ面白いノを見つけて」
「面白いモノ?」
「昔話。
しかもかなり昔、この国が今では信じられない程神や自然と近かった頃の話」
慧がそう言うと船木は胡散臭そうに首を振った。
「信じられない程と言われてもなあ。
今でも帝国は先進国としちゃ有数の自然に、神代皇家とその宮家を頂点とした神祀る国として他の国々とは比較にならない程に神や自然の近くで生きている筈だ ぞ?」
からかうようだが、それでいて無視はさせないという口調。
自 身ははなから神など信じていないという様なのに。
それを慧がやりこめる。
「もし本当にそう思っているのなら、この状態を十分と思えること自体が想像力の貧困。
神とは社に行って崇めるだけの対象ではなくて上手く共生しなくてはらないモノ。
自然とは守るべきモノなんかじゃなくてむしろ畏れるべきモノ。
神を崇めても神には何の利も無い、だからただ崇めても神は何も応えてはくれない。
結果、現在では皆が神は居るとは言うけれども誰も神の振るう力なんて信じてはいない。
当然よね、見えもしないモノなのだから。
そして自然。
自然は攻撃されればそれに対して冷徹に反撃の鉄槌を下す。
何倍ものおまけを付けて、無関係なものまで巻き込む容赦のなさで。
それらを忘れるなんてこと、自殺行為で本来許されるはずがないのに神代が許してしまった」
「ちょっと待てよ」
船木はむっとした調子で制止する。
「俺からしてみれば原嶋ちゃんの言ってることこそ訳分んねえな。
それじゃまるで自然に意思があるみたいじゃねえか。
第一、神代皇家のお蔭でってえなら他の国はどうなるんだ」
確かに、慧の話したことは今船木が言った様に帝国だけの問題ではない。
それに慧は冷静な声で応える。
「訳分からないと言われるのは覚悟の上よ。
本当ならこんな話、船木さんみたいな人にはしないもの。
外国のことだけ説明するなら急に激減した神に混乱させられた自然が正常な反応を出来なくなっているのよ。
何も対策を立てないなら百年も経たずに自然は反応を再開して反動で人の住めるこの世界は崩壊するわ。
兆候はちらほら現れているはず。
もっとも、もうちらほらどころではなくなっているのかもしれないし、最近じゃ外国だけの話でもなくなってきているようだけれどね」
そう言って嘲るように小さく笑うと話を続ける。
その対象に自分自身も含まれているのかは分からない。
「自然を守れというのは最近良く聞くけれどお笑いね。
今の世界のままで多少の悪足掻きをしたところで自然の望むモノからかけ離れていることに変わりは無いもの。
自然の反撃は溜められれば溜められるほど開放された時に強くなる。
昔の世界に戻るか今の世界をどうにかして自然に認めさせない限り根本的な解決は無理ね」
「大きな話になってきたな。
だが似たような話なら環境問題で聞いたことがある。
自然の反撃ってのはあれのことを言いたいんだろ」
しばらく船木は考えていたがやがて納得したように頷く。
「うん、環境破壊は確実に自然への攻撃だな。
で、酸性雨や温暖化による異常気象なんかは自然からの反撃か。
資源の枯渇は自滅だし、核兵器は人間が創ったもの、関係ないモノとしておこう。
よし、どうにか自分の言葉で翻訳出来たな。
悪いが俺は神代の法を好きじゃない、別の法に従わせてもらう。
ところで朋はこの話を今まで聞いたことがあるか?」
二人の話を他人事のように聞きながらお茶を注いでいる朋に船木が聞く。
「慧との会話の中で多少予想できてはいましたけど。
ここまで具体的なのは初めてですね」
「そうか、朋にも秘密の話か。
で、俺らは何をすればいいんだ?」
船木は信じられないというのは残しながらも先程の胡散臭げなものとは別の表情で慧を見つめる。
自分の領域内である環境問題に話をつなげられた事で一応認める気にはなったのだろう。
それに対して慧はいつもどおりに冷静に、
「何にも。
以前なら神代に任せとけで済んだのでしょうけれど、もうそんな次元ではなくなってしまっているし。
神頼みでもする?」
「笑えねえな」
真剣な船木に慧はどうでもよさそうに笑ってみせる。
「どちらにしても百年後の話。
今はそんなのどうでも良いわ。
本題は直樹に関わる話」
「倉橋にって」
倉橋直樹、真紀の恋人で真紀がああなった原因のようなのだが、彼についてはいまだにほとんど分からない。
「で、昔話」
慧は船木の言葉を遮るように続ける。
「といってもそんな大層な話じゃないわ。
神を不愉快にさせた男が居てその男は生きたまま使い神にされた、それだけ。
高位の神が下位の神を僕にするのが使い神だから、下位とはいえ人が神になったということね」
「もう少し詳しく頼む」
「当たり前じゃない。
その頃はまだ神と人の法は存在してなくて神はもっと人をからかったりだましたり、時には呪ったりする存在だったわ。
反対に人の手伝いをしたり願いを叶えるとかみたいに正の作用も多かったみたいね。
それでも当然神は神、人は人だった。
こんな人を神に変えるなんていうのは今までの文献じゃ見られなかったこと。
新しい発見よ」
少しだけ熱い口調で慧はそう言う。
「全く、何百年も口伝として伝えるくらいなら文献化した方が楽なのにな。
それでも伝わってるんだから大したものと言うべきかな」
呆れつつも現在まで残っているという結果は認めざるを得ないのだろう。
「文献化しないのは記録として後世に広く残したくは無いモノも含まれているから。
口伝として残すのは完全に忘却することが許されないモノも含ませるため。
もちろん文字を知らなかったり文献化する事自体が面倒くさかったと言う理由もあるでしょうね。
それでも文献化されたモノならないわけじゃないのよ。
まあ、それについては後に回させてもらうけれど」
「何があったの」
慧は朋の問いに応えるように頷くと急に年寄りのように咳払いをする。
その咳を境いに慧の雰囲気が一変した。
神掛り的な顔つきのまま慧は語り始める……

「コホン。
あるとこおにふわふわした神さんがおってな。
そん神さん大層偉いんだがかなりの怒りんぼうで近隣の神も人も困っておった。
それでも相手は高位の神さんじゃから何とか我慢してやってきてたのじゃが、ついにはお社さ悪さしようとした人をその身体から引き剥がして無理矢理自分の使 い神にしてしまったのじゃ。
それが今までは黙認しとった他のお偉い神さん方から大いに不評を招いてしまってな。
結局は神議りの結果神去らせることが決まって、そのために呼ばれた旅神さんによって神掃われてしまったのじゃ。
ふむ、使い神となった人がどうなったのかか。
知らぬよ、伝えられておらぬでな。
わが知るは伝承のみじゃ」

慧の声と話し方が変わっていた、まるで老女のそれである。
だが、以前こうなった慧を見たことがあるのか船木も朋も別段驚いてはいない様子。
「口写しか、大したものだな」
それでも船木は感心したようにそう呟く。
「私のはまだ理解された記憶として変換できていないから。
聞いて覚えたのを口写しでレコーディング、それを起してまとめなくてはならないの。
まとめる時楽なように方言を分かりやすく置き換えてはいるけれど、それでもひどい手間よ。
けれども口伝による伝承を知りたいなら口写しは使えないと話にならないのよ。
何であれ記録媒体を前にすると人は程度の別はあれ固まってしまうから」
淡々と述べる慧に船木は感心したように呟く。
「そこへ到るだけでもかなりのものなのにそれをそんな簡単そうに。
でもな、だから何だ?」
「わからない?
あ、ひょっとしたら工学馬鹿には無理かもしれないわね」
凄いことを平然と言ってのける慧に船木はただ苦笑いをするだけ。
「そういうのを考えるのは苦手でね。
その上周りにそれ専門の奴が居るからな、ついそいつに頼っちまう」
そう言って朋の方を見る。
だが、その表情は少し暗い。
そんな船木に気付かないのか、しばらく考えて朋は続く。
「わざわざ人を身体から引き剥がしてと言うくらいなんだから、きっと人の心だか精神だかを肉体から引き剥がしてそれを使い神にしたんだよね。
それじゃ、その肉体の方はどうなったんだろう」
慧は正解と言いたげににっこり笑う。
「さあ、それは伝わっていないから。
でも、ひょっとしたら意識だけを失った肉体は眠ったような状態になっていたのかもしれないわね」
「直樹はこの男が神にされたように肉体と精神を分離させられている。
こう言いたいのか?」
船木は先程からかなりいらいらしている。
「そうよ、他に今までの私の言動から導き出せる結論はある?」
そんな船木に慧は信じたくないなら信じなくて良いわよと目がそう言っておりこちらも挑戦的。
とにかく理由はどうあれ直樹は今眠っているような状態らしい。
だが、彼らの話を聞いている限りただの植物人間でも無いようだ。
「証拠がない」
「だから、全ては状況が示しているわ。
そう言われるのも覚悟してるのよ」
「この口伝についてもう少し詳しく調べてみれば直樹さんの様態について少しは分かるかもしれないのかな」
一方朋は建設的な意見を述べる。が、
「それはそうなのだけれど、普通に試してもちょっと無理ね。
言ったわよね、文献に残っているものはなくて口伝は私の知っている限りこの一例が初めてって。
そして、口伝の内容はこれが全て。
予定を変更して近くの集落をかなり廻ってみたのだけれど、これ以上の情報は得られなかったわ。
元に戻す方法はおろかこのあと使い神がどうなったのかすらわからないまま」
「な、それじゃてんで意味がねえじゃねえか!
今から他の口伝を探していったら何年かかるか。
それに、あるのかどうかすらわからないんだろ」
先程まで信じないと頑なに主張していたのにそれが使えないと知った途端怒り始める船木。
何だかんだ言いながらも期待していたようだ。
そんな船木を見て慧は続ける。
「そう、だから公認されていない文献に当たる」
それまでまるで慧と船木の会話だとでも言うかのようにポーっと聞いていた朋がはっと息を呑む。
「都合よくどこかに隠された秘文書でもあるってぇのか?」
それに気付かず投げ遣りに放った船木の言葉に慧と朋が同時に頷く。
「慧が昔愚痴で言ってた。
神代(カミヨ)の神書、あれさえ使えれば自分の研究は比較にならない位楽になるのにって」
「神代の、神書だあ?」
船木は言われた単語を繰り返す。
「そ、あれよ。
神書といっても実際の所は膨大なデジタルデータらしいわね。
あれなら私が苦労して集めてる情報を信じられない質と量で保存しているはずなのよ」
「守にでも借りるのか?」
「第一級の秘文書。
借りれるものなら全国出かけて口伝収集なんて面倒なことしない。
守なら読めるのでしょうけれど、私たちに教えてくれることはまず無いでしょうね。
頼りないけれど私のアクセス権でどうにかするしかないわ」
「アクセス権っても神書のもんじゃねえんだろ。
そこまで特級の情報、俺たちがにわかクラッカーしたところでどうなるもんでもねえと思うけどな」
「それに、そういうのは外界から隔絶されているんじゃ?」
理系の男二人は否定的な見解を示す。
当たり前だ、何せ神代のモノにハッキングしようと言うのだから。
「だから私のアクセス権を使う。
公式には私と守の婚約の約定は取り消されて存在すらしていなかったように扱われてるわ。
だから単に神代皇家のデータバンクから落として更新している場所では駄目、これでかなりの場所がもう駄目。
けれど、全てのデータが書き換えられているとは限らない。
特殊にカスタマイズされていたり外界から遮断されていたりで書き換えが自動では行えないものなら特に。
それに私が昔からよく行っていた場所なら普通に家族の一員として入れるかもしれないわ。
神代のものはさすがに無理としても宮家のものやオリジナルじゃない二次的な物なら……」
「えっと、要するにどういうことだ?」
「どこかの宮家にお邪魔してそこの内部管理端末に慧のアクセス権があればあとは神書を見るために必要なのは神書へのアクセスパスワードくらいになるかもし れない。
そういうこと?」
疑問で一杯の船木に対して朋はただ慧の考えに反応している。
「普通には存在すら知らされていないモノだろ?
そこまでお粗末な管理がなされてるもんかね?」
「一皇家十五宮家もあれば幾つかはきっと」
「まずは守にでも頼んでみりゃ良いじゃねえか。
断られればその時にまた」
「それだと失敗した時に警戒されてしまう可能性があるのよ。
守は私が欲しい物を手に入れるのに躊躇しないことは知っているから」
そこで船木は諦めたような顔になる。
「なら、宮家からか。
どうせ当てはあるんだろ」
「詫桜宮家。
あそこには子供の頃お世話になっていたから」
「恩を仇で返すか。
でもあそこも変なの揃いらしいからな。
まあ慧らしいと笑ってくれるかもな」
「揃いと言っても今ではもうおじい様一人だけよ。
でも。ま、笑って許してくれるでしょうけれどね」
「そうか。
なら俺も連れて行け。
どんな処理系だろうが中と繋がりさえすれば即行でパスワード解析用のソースを作ってやる」
「あら、良いの?
これって」
慧が首を傾け頬に手を当てて何か言おうとするのを制して船木が続ける。
「犯罪なのはわかってるさ。
原嶋ちゃんだって俺の腕が欲しいからここまで話したんだろ。
それで『あら、良いの?』と来るとはいつもながら良い性格してるよ。
ま、原嶋ちゃんと話してると何でもないことを話してる気になってくるけどな」
「それは、良い傾向。
何をするにしても慣れていないで一々気に病まれるんでは話にならないわ」
「僕には無理かな」
いきなり朋が気弱な発言をするが、
「私は朋にそんなことが平気な人にはなって欲しくない」
あれあれ、船木へのとはずいぶん違う対応だ。
「俺だってそうさ、お前はお前らしくしてればそれが一番なんだよ。
ボケーっとしてるのに最強なのが我らの朋だからな。
真紀の時だって手強かったしなあ」
「船木さん」
朋が止める、いつも穏やかな朋にしては強い口調だ。
「あ、悪い。
原嶋ちゃん……」
「別に良いわ。
と言うわけでも無いわね、なんだか船木さんのこと殴りたくなってきたわ。
これが言葉で傷つくということ。
他人も同じように嫌な気持ちになるからこういう事をしてはいけない。
そういうこと?朋」
「あ、うん」
戸惑ったように朋は相槌を返す。
「で、決行はいつ頃になりそうなんだ?」
二人の間に流れる微妙な空気を無視するかのように船木が強引に続ける。
それに答える慧の声は完全にいつもの慧のそれだった。
「侘桜宮家に友人を連れて遊びに行くという形を取りたいから宮家に連絡を取って許可を貰って……
2,3週間後の週末ね。
遠いし夜の方が何かと都合が良いから泊まりになるわよ。
予定があるなら今のうちに言っておいて」
「いや、大丈夫だ。
再来月まで週末に大学の予定は入っていない。
週末とはいえ俺と朋の二人がいなくなるとなると研究室のほうが結構つらいんだが、まあどうにかなるだろ」
「そう、それじゃ決まり次第連絡を入れるわ。
くれぐれも真紀の前では話さないように……っと話して不思議がられてもどうせ次の日には忘れてるんだし大丈夫ね」
「慧!」
強い声になる朋を船木はまた軽くあしらう。
「ハイハイ、泊まるとなると真紀はさすがに連れて行けないかな」
どうやらこの二人が大事にしていることを船木は気にしない、もしくはあえて軽く扱ってみせているようだ。
「連れて行くわよ、策は考えてあるし」
「策?何のための何に対する策かは知らないがそんなものがあるなら早く使えよ」
「あなたと朋が賛成してくれるなら使っても良かったのよ?
常習性があって最終的に廃人になっても良いと言うならだけど」
「友人をそんな風にするものを策とは言わん」
「残念」
「んじゃとにかく今日はこれでお開きだな。
原嶋ちゃんはどうする?」
「泊まっていくわ」
「そっか、それじゃまた明日な」
「おやすみなさい船木さん」
「おやすみ」

 船木が帰った後の部屋には静寂が残った。
それを先に破ったのは慧だった。
「朋、いきなりこんな話を聞いてびっくりした?」
「そうでもないかな。
直樹さんの病気は現代医学じゃ説明不能らしいからね。
むしろ神が関ってると言われた方がしっくりするさ。
それに、僕は自分の彼女が普通のやつだと思ったことはないからね」
「あなたは神を信じるの?」
「存在を示すモノも予見するモノも学術的に認めるに程遠い以上それほど信じてなかったんだけどね。
神代の不思議はただの噂じゃ片付けられない位に良く聞くし」
「なら、私があなたと結婚したとして……」
「僕はそのつもりだけどな」
「茶化さないで!」
朋が茶化している訳ではないのはわずかの付き合いの私でも分かる。
そもそもそんなことで怒るなんて今までの慧からは考えられない。
「ごめん」
朋が謝ると慧ははっとした顔になり表面上はいつもの慧に戻る。
「こちらこそごめんなさい。
それで、子供を産んだとして。
それが人じゃなかったらどうする?」
「本当にどうしたの、慧。
自分が人じゃないとでも言い出すつもり?
例えどんな子供でも僕と君の間に生まれた子なら大事な僕の子さ」
その言葉に慧は何故か余計につらそうな顔をする。
「あなたも、私も人よ。
けれど違うの。
私の初めて産む子は。
それがあなたの子供でも……
それはあなたの子供ではないの。
そして、私はそれを望んでいる」
慧は泣き崩れた、訳がわからない。
どう対処すれば良いのか分からないのは朋も同じようで慧の肩に手をやったままで困ったような顔をしている。

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