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無限の日


作:夢希
2−2.侘ビ桜

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「それにしても何が『良い考えならあるわよ』だ」
「そう、何か問題?」
朋達四人は新幹線に乗っていた。
話からすると金都へ向かうものらしく、先日慧の言った通り真紀も一緒だ。
ただし、
「問題も何も睡眠薬で眠らせたまま連れて来ただけじゃねえかよ」
「力技と言って欲しい」
微妙に胸を張っているところが謎だ。
「それは全然誉め言葉じゃないからな。
寝てるの車椅子で無理矢理連れてきて……
起きたらどうするつもりなんだ?」
昨日の夕食後、慧は盛り上がりに掛ける声でじゃーんとか言って取り出した和菓子を皆に配った。
それを食べ終えるとすぐ真紀は眠そうにしていたが、しばらくするとついに横になり寝入ってしまった。
そして、眠り続けたまま現在に至る。
「さあ?実験だから。
でも真紀のことだから適当にごまかせば問題ないわ」
いくら何でも気付いたら知らない場所に居たというのはごまかしてどうにかなるものでも無いと思うが。
「ごまかして済むはずないだろ!」
そう言って騒いでいる船木に慧はそうねと意味不明な相槌を打ち、そんな二人を朋は楽しそうに眺めている。
朋と慧、友人のことを助けようとしているにしては多少不真面目な気もしなくはないが、彼等には四六時中真紀のことが付きまとっているのだ。
常に気を張り詰めていては到底耐えられまい。
「でも、確かに面白いですよね。
夜の九時に倒れると共に記憶がリセットされているとしたらそれをさせずに眠らせたらどうなるのか。
それに、精神科の先生が言うには真紀さんは直樹さんならどう反応するかを予想してそれに忠実な直樹の亡霊を作り上げているらしいので真紀さんを気絶させる こと無く混乱させられれば直樹さんの亡霊を消すことも出来るかもしれないんです」
「そんなものとっくに試しとけよな」
直樹の亡霊のところで微妙に表情を崩した船木がそれに気づかれないようにか少しぶきらっぽうに呟く。
それが何を意味するのかは分からなかったがその時、船木は確かに朋を見ていた。
船木の変化には気づかなかったのかいつも通りの朋が答える。
「とっくに試してますよ。
ただ、真紀さんは時計の音がしなくても、例え眠っていても体内時計か何かであの時間を察知しちゃうようですから。
あの電話のインパクトは真紀さんにとってかなり強力です。
普通に使えるような睡眠薬じゃ無意味なんですよ」
普通に使える睡眠薬?
「それじゃ、真紀に使ってるのは」
「あちらでも使おうと思って持ってきているのだけれど……
今身体検査されたらさすがにまずいわねえ」
「という代物です」
「『という代物です』じゃねえよ!」
したり顔で慧の語尾に続く朋に叫ぶと船木はため息をつく。
「朋、お前には慧の暴走を未然に止めると言う義務があるのを知っているか」
朋はそれに『暴走じゃありませんってば』と言って返す。
「ただ眠らせるだけなら普通の薬でも充分なんですよ。
でも、それは九時に倒れた後に眠ったままの状態を持続させている時の話しで……」
「電話の失神は記憶を次の日に持ち越させないため。
どうやら記憶を持ち越す事が重要みたいね」
「何だってそんな面倒なことに」
「真紀が望んでいるからよ」
彼等はその言葉にほんの一瞬固まる。
真紀が真に停滞を望んでいるならこれまで通りのままごとを続けることこそ真紀のため。
真紀に帰ってきて欲しいという願いは有り得ても、本人の願いに対して停滞を止めるべき・止めさせるべきという理屈は意味が無いのだ。
「それで、真紀のおばさんにはどう説明したんだ」
そんな想いを打ち消すように船木は話題を替える。
そういえば真紀の母親とやらは朋と同じマンションに住んでいたのであった。
「ちょっと考えがあるから任せてって言ってそれで終わりね。
私、信頼されてるから」
「はん、そういうこと自分で言うかね」
またもや少し胸を張らせていた。
慧にしては珍しい態度だと思って気が付く。
はしゃいでいるのだ。
「そう言えば聞こうと思っていたのだけれど、朋ったらどうしてすぐに気が付いたの?
私が何を意図していたのか」
 昨日真紀が眠ってからの朋はまるで慧から何をするのか聞いていたかのように手際が良かった。
慧が意外そうな顔をして見ていなければ朋はすでに何をしようとしているか知っているのかと思ったところだ。
「やること自体は前に普通の睡眠薬で試そうとしたのと余り変わらなかったからね。
眠らせて連れていくだけなら昨日の夕飯の後に仕掛ける必要もなかったわけだし。
真紀さんの朝食は毎日同じもの、今朝の朝食に混ぜて置けばそれだけ薬は少量で済んだのにわざわざ気絶前に使ったのだから、記憶を保たせようと考えているの は予想がつくよ」
「そういうこと、上手くいけばこの旅行の間真紀の記憶は保たれるわ」
「そんなのもがあるんだったらこれから真紀には夜は早く寝る健康的な生活になってもらおうぜ」
短絡的な船木の発言に慧は首を振る。
「さっきも言ったはず。
依存性のあるものだからこれ以上の長期に使うのは避けたいの。
けれど……
植物人間と薬物中毒のカップルを作りたいというのなら止めないわ」
いくら朋との旅行ではしゃいでいるとは言っても慧の普段の行動と比較して考えの無さ過ぎる発言。
船木が肩をすくめ、朋が表情を強張らせて叫ぶ。
「けい」
慧は後悔したような顔をしてみせる。
「分かってるわ、可哀想な人をそういう風に言ってはいけないというのでしょう。
言ってから気付いたわ。
朋の前でなければ絶対にこんなミスしないのに」
これでは彼等に悪いからと言うより朋に怒られるからと言っているようなものだ。
もちろん朋も気付いている。
「慧、演技じゃなくちゃ出来ないなんて言わないでよ。
普通に考えてみれば良いんだよ」
慧は苦笑してみせる。
「と言われてもねえ、頭では理解しているけれどもね。
感情ね、こんなに面倒なものだったなんて。
計算した結果としてではなく話したいと思ったことを吟味もせずに口にする。
これが普通、すごく大変ね。
知ってる?朋と会った後はいつも自分の話したことをチェックしてるの。
そんなこと言ったんだって私自身毎回驚いてるのよ」
今日の自分を思い返せば今回も赤面ものだろう。
感情があるのなら。
「確かに朋の前じゃないときの慧はなんていうか完璧だからな。
前に偶然見かけて話し掛けたときはびっくりしたぜ」
二重人格、では無いようだが。
「私には守らなくちゃいけないものが有って、そのためには擬装も必要だった。
朋が初めに好きになったのが真紀で本当に良かったわ」
「確かに、あんな状況で無ければ僕の前で慧自身でいてくれることはなかったろうからね」
「狂ってたんだろう?
そん時の朋を見たかったぜ」
「でも、あの日々があったから今の僕があるんです。
後悔はしてませんよ。
思い返すと恥ずかしいですけどね」
むしろ清々しい返事をする朋。
「ああ、はいはい。
お前はいつでも前向きなやつだったな。
で、慧。
今俺らはどこへ向かってるんだ?」
ご馳走さまと言いつつ船木は当然知っていると思っていたことを聞く。
「侘桜宮家に決まってるじゃない。
何を当然のこと」
慧も何を言っているのと言わんばかり。
「いや、最終的な目的地の名前はわかってるんだが。
何という駅に行くのかとかどこら辺に行くのかとか知りたいことは一杯あるじゃないか」
「下川原」
慧はそれに答えるように駅の名前?を告げる。
「知るかっ!」
「新幹線で金都乗り換え福山まで、そのあと伯美線で新美、そのまま安芸備線に入って内名まで。
これが帝都六時発の新幹線だから……
十一時過ぎには着くわね。
場所は土都管理区東部の山奥よ」
「げ、五時間もかかるのか!」
「これでも福山から内名まで特別便出してもらってるから早い方。
普通なら接続とかの関係でこうはいかない。
少なくみても一時間は多くかかるわ」
「特別便?」
「曲りなりにも宮家のある路線なのよ。
一日に五本なんていうんじゃ話しにならない。
宮家へ用のある人のための特別便は当然出るわ」
「だからって単に遊びに行くためだけに電車を一本……」
「わざわざ電車を出さなくても車を出してもらえればそれで充分な……」
朋と船木はさすがに呆れている。
「宮は鉄道が好きなの。
厚意なのだからうれしく受け取っておきましょう」
そんな慧を見て船木も気を楽にする。
「ま、そうだな。
でも何でそんなど田舎に宮家があるんだ?
初歩的な質問なら悪いが俺は神代とはなるだけ無関係でいたくてな。
ちょっとした評判なんぞは耳にするが宮家の名も全部言えない程度だ」
「名前も侘桜の宮という位なのだから風流なのか変人なのかわからない人が創始者なのでしょう。
どちらにしても子供もいないし当代で廃止は決まっているわ」
親しい関係と言うにはあまりに適当な慧の言葉に朋が付け足すように加える。
「宮家の近くの侘桜に神が封じられていて宮家はそれを見張るなり守るなりしているという噂もありますよね。
で、封印が解かれて必要のなくなった宮家は廃止になったとか」
封印?
「宮と私の前でその話はもうしないでもらえるかしら?」
その後、今まではしゃいでいたのが嘘のように慧は不機嫌だった。





「良く来たね慧君。
ここに来るのは十年ぶりかな」
内名という駅を降りたところには老人が一人、車で迎えに来てくれていた。
今は幸せそうに笑って好々爺然としているが、目付きや身のこなしなどこの年になっても衰えを感じさせないものが彼がただの老人では無いことを示している。
「いいえ、ゆたおばあ様のお葬式の時に一度来ておりますわ」
「そうだったねえ、あの時はこの村の人口の何倍もの人が来てくれた。
おかげで久しぶりに来てくれた慧君に大したもてなしも出来ずじまいで。
今回はゆっくりしていっておくれよ。
ゆたにも言っておいたよ。
小さな頃は夏になると毎年のように遊びに来てた慧ちゃんが今度は頼りになる恋人連れて遊びに来るってね」
「なっ」
話し振りからしてやはりこの老人が宮か?
「で、恋人君はっと。
あぁ、二人分の荷物持ってる君だね」
確かに朋を指差す。
「はじめまして、飯島朋です。
良く分かりましたね」
「慧君の分も持たされてるのを見ればわからいでか」
そう言って楽しそうに笑う。
「でもな、それだけじゃないぞ。
慧君の表情を見れば一発だ」
老人はにやりと笑う。
案外と茶目っ気の多い人なのだろうか。
「ぱっと見た感じは合格じゃな。
何にせよ慧君の演技を取り払えたのなら誰も反対は出来んての」
「な、おじい様知っていらしたの?」
途端に慧が少し驚いた表情をする。
「最後の夏はずっと悲しそうにしていたからねえ。
子供の演技に気付けないほど鈍くはないつもりだよ。
ただ、あの時何が起こったのか二人とも詳しく話してくれんかったからのう。
その仮面を取り払ってしまうと壊れてしまいそうな気がしたからそっとしておいたが。
そうかそうか、よくやったぞ…っと」
いきなり言葉を詰まらせる宮に朋は、
「飯島朋です」
名前を忘れていたらしい。
「朋君、本当によくやった。
で、もう一人の方は?」
「宮におかれましては初めてお目にかかります、飯島と同じ研究室で二つ上の船木でございます」
船木は緊張している訳でもなさそうだが極端に丁寧な敬語になっている。
「そんなにしゃちほこばる必要はないさ。
慧の友達なら私にとっても友達みたいなもんじゃ」
「そう仰られましても、宮家の方と話したことなどこれまで一度もないのでどう接して良いやら」
「なら覚えておくとよい。
宮家のモノと話すのにはため口が一番じゃとな。
それで慧君、今日はどうするつもりなのかな。
お昼にと思ってお蕎麦を用意させてもらっているのだが」
「ありがとうございます、喜んで頂きますわ。
その後で、ですけれどここも久しぶりなので少し散歩でも楽しもうかと思ってますの」
「そうか、それじゃ朋と二人で行ってきな。
俺は疲れたから宮家で少し休ませてもらうぞ」
宮が面白そうに船木の顔を覗く。
「どうした爺さん?」
「いや、ちょっと面白い想像をさせてもらっての。
それとも、君のお相手はその車椅子の御仁かな?」
宮は真紀を指し示し、船木は本当に嫌そうな顔をする。
「そいつだけは何があってもお断りだ。
それと、俺にはちゃんと火都で元気にやってる相棒が居るからな。
かしましくてこちらが辟易するくらいの困ったやつだが……
とにかく爺さんの期待してるようなことは起こらねえよ」
爺さん、いや宮は一瞬驚いた顔をするが次の瞬間大笑いをする。
「ハハハハハ、本当にいきなりため口とはな。
いや気に入ったぞ。
慧君よ、朋君と楽しんでくると良い。
その間この青年の相手は喜んで儂がさせてもらおう」
「碁でもどうだ。
出来るんだろ?」
「さすがは船木さん、一瞬で馴染んでますね。
それじゃそうさせてもらいますか」
朋と慧が世間一般的な遠慮よりも自分達の時間を優先させるのは少し見ていれば分かる。
もちろん、その分周りのこともきちんと考慮しているのだから我が侭なのではない。
慧の場合はそれら全てが計算ずくなのかもしれないが。
「で、だ。
その娘はどうするのかね?」
宮が指したのは車椅子の上の真紀。
昨日の午後八時前に寝入って今はもうお昼時だ。
だが、いまだにすやすや眠り続けている。
「慧、ここまで寝続けるのも考えどおり?」
「いいえ、まさかここまで強いとは思わなかったわ」
興味深げに横で話を聞いていた宮が口を挟む。
「何の話だか詳しくは分かりたくない気もするが起きるまで布団で寝かせとけば良いじゃろ。
腐っても宮家の本邸だ、めったな事は起きまい」
「そうですね、悪いですけどお願い出来ますか」





「ひょっとしてこの頂上?」
昼食の後、慧に連れられて階段の前まで来た朋が悲痛な声をあげる。
ここに来るまででもそれなりに歩いていたのに、目の前にある階段はさらに小山の頂上まで続いていそうなのだ。
悲鳴を上げるのも無理はない。
「結構大変。
雨が降っても登ってた小さい頃の私は賞賛に値するわね」
慧も少しうんざりしたような顔をするがそれでも歩みは止めない。
「毎日?
この上に何があるのさ。
見た感じ頂上の方だけ木が切り払われて空き地みたいになってるけれど」
 その小山は不思議な山だった。
山頂まで階段があることからして変なのだが、その階段の前には階段の古さに不釣合いな新しい鳥居が建てられている。
山の中腹までは緑に覆われているのに山頂の方は土の色が剥き出しだ。
山頂に灰色の大きな柱が二本建っているのがここからでも目に付く。
慧はそんな小山を見上げている朋に対して何か期待しているような諦めているような良く分からない声で呟く。
「行ってみれば分かるわ……
いえ、もう分からないかもしれない。何も」
「とにかく登るんだね、それじゃ行こうか」
慧の雰囲気がいつもと違うのには気付いただろうが、朋は深く追求もせずに階段を登り始めた。


「これは、何か異様だね」
四分の三ほど登った頃だろうか、朋がさすがにそう切り出す。
「この辺りを境に緑の有る下の部分と何も無い上の部分とに別れ始めてるけど。
この調子だと上の方も切り払われてる訳じゃないのかな」
そう、周囲の木々は登るに従って元気が無くなっていき、この辺りではついに枯れてしまっていた。
山頂の方に木の無い理由は土壌汚染などの何らかの力が木が生えるのを阻害していると考えざるを得ない。
「何なの?って聞いても今は答えてくれなさそうだね。
登りきるしかないってことか」


「下に居る時から不思議に思ってたけれどこれはやっぱり鳥居だったんだよね。
原因は地震のようだけれど周りの様子を考えると何とも言えないな」
目の前には異様に大きな石の建造物が建っている。
だが、建っていると言う表現はおかしいかもしれない。
既に鳥居と思しきものの上の部分は落ちて三つの破片に割れていたのだから。
それにしてもここに来てからの慧の様子のおかしさは只事ではない。
ほとんど話をしない。
朋が話し掛けても相槌を打つだけで。
けれど朋は慧がそんな様子でも気にせず話し掛けている。
まあ、もともとこの二人の会話なんてそんなものだったかもしれない。
慧と朋は二人で居る時は余り話をしない。
それならいつもとどこが違うのだろうかと考えて気付く、今は二人で居ても幸福や満足といった感情が彼等から感じられないのだ。


「っと、これは……
桜、なのかな?」
頂上には大木が一本生えていた。
が、雷か何かの衝撃で真ん中から裂けてしまっている。
周りには遮るものなど何もなくもっと早くに見えても良いはずだが、この大木は頂上に来るまで全く見えなかった。 「ゆうき!」
慧はその大木の前に立つといきなり叫び声をあげる。
が、もちろん何も変化は無い。
一瞬私を何かが突き抜けた気がしたが……
慧も朋も気付いていない、私に何の変化も無い。
気のせいだったのだろう。
「ゆうき、はやはり居ないのね。
当たり前。
何を期待していたのかしら」
慧が気落ちをここまではっきり表したのは初めてだ。
「慧、何を言って」
「見て」
朋の疑問を遮ると慧は木の方を示す。
その先には縄があり紙が垂れている、注連縄。
「しめなわ?
神代の注連縄が汚れてる」
注連縄は常に白く判りやすくあってこそ意味を持つ。
汚れる注連縄などと言うのは神代のものではない偽モノか若しくは……
「ここ、昔は神の領域だったから神代の注連縄で示され占められていたの。
でも、今はもう何も無いから。
知ってた?神代の注連縄が常にキレイなのはその存在を万物に知らしめる為。
役割を終えたモノは汚れても構わないのよ」
「じゃあ、この桜は」
「今はもうただの桜。
だけどつい十数年前まではゆうきを封じ、そしてゆうきが封じ、自然からの干渉を守ってた」
「さっきから言っているゆうきっていうのは。
やっぱり」
「そう、ここに封印されていた神よ。
そして小さい頃の私の最高の友人にして、大人になった私から生まれてくる人神」
朋と慧が向き合う。
「話してくれる?」
慧が覚悟したように、待ち望んでいたように口を開く。





「信じられない、という言葉は使うべきじゃないんだろうね。
それじゃ、この周りに命の気配が無いのはその時の影響で?」
慧が頷く。
「直接的な原因が何なのかまでは分からないけれど。
封印結界を破壊された時の影響かしらね」
「ゆうきに呼ばれていない人にとってここはただ侘桜のあるだけの山でしかないのか。
でも、そんな大事が起きたならもっとニュースになっても良いはずじゃ」
「ここは宮家直轄の禁山だから、普通じゃないことが起こっても不思議は無いわ。
神代が問題無いと言えばそれでお終い。
朋だって神代に関わる噂はいくつか知っているでしょ。
何があろうと報道されなければそれは事実という状態を外れてただの噂に落ちてしまう。
さらにその噂の中に根も葉もないものもたくさん散らばっているから」
「侘桜宮家の噂ってひょっとして」
「そうよ、それは噂の通り。
ここの守護が任務だったわ。
それが、封じられていたモノは開放されてしまったから。
最悪の事態は免れたけど、封印開放の責任を問わないわけにはいかない。
存在意義も無くなって子供も無いことを幸いに廃止が決まったわ。
馬鹿な話よね、すでに力を失った宮家にどうやったら封印が破られるのを防げたと言うのかしら」
そして慧は帰りましょうと言うと寂しそうに笑った。
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