帝都郊外。
大鎌を持った人と神である私が対峙している。 力さえあれば辺りは『神であったモノ』で充満しているのが分かるはず。 そして鼻が良ければ、血と体液の混ざったような匂いも…… それが私の前にある人を怒らせている理由。 ふふ、それにしても使えないハグレ神だったわね。 私がそう思うと周りの空気が怒気を帯びる。 『神であったモノ』が私の思いを感じ取ったのであろう。 けれど何も怖くは無い。 そう、怒ってもその程度の存在にしかなれない。 腐っても四百年は生きた神だったのよ。 そんなだから相手がこの小僧とはいえあんなにあっさりと消されてしまうのよ。 オニと呼ばれ過去には神代とすら対峙しうる勢力となったことさえあるモノ達が一の癖に。 やはり悠久の時間を持つと思える神にとっても大事なのは生きた時間それ自体よりもそれをどう使ったかのようね。 初めから強くあったせいでそれ以上は努力も苦労も行わず好き勝手し放題。 挙句四百年を経てこの程度の力しか持てないのでは同族からも見限られるわけだわ。 私にとって? こんなんじゃ当然ただの捨て駒としてしか見れなかったわよ、使えない。 まさかここまで本当に何の役にも立たないまま暴走されて捨てる羽目になるとは思わなかったけれどもね。 これでは仲間にしたのは単なるマイナスじゃない。 それもこれもこの小僧のせい! 再び視線を小僧に戻す。 こいつがこの馬鹿オニをマークしていなければ私の方が確実に早くこの現場へと来れて逃がすことも共闘することも出来たのだ。 悪いのはマークされているのにも気付かずなかったやつ、暴走している現場を押さえられたやつ、私が来るまでの一瞬の間に処理されたやつ。 そう、このオニ。 分かってはいるのよ。 それでもこの小生意気な小僧をすぐにでも潰してやりたい衝動に駆られる。 けれど、それも耐えるしかない。 悔しいことに今の私では良くて相打ちなのだから。 その上、時が経てばあいつがでしゃばって来る。 そうなってはまるで勝ち目なんて有りはしない。 要するに現実には相打ちですらほぼ絶望的。 まったくもう、何だってあいつがこんな奴に付いてるのよ! 仕えてる?冗談でしょ。 あいつがそんな殊勝なはずないじゃない。 遊んでいる?ならゲームの目的を知らなくては。 あちらが楽しんでいようと玩具にされているモノにとっては命懸けなのよ。 まあ、結局あいつの目的が何にしろ、この状況に関係は無い。 今私に出来ることは距離を置いて睨むのみ。 そんな私の考えが分かるのか小僧もちょっかいを出してはこない。 自慢にもならないけれど逃げることに専念するなら私の種族はずば抜けているのよ。 「なんだ、最近うろちょろしているやつが多いと思ったら貴様が原因か。 成り損ないのようだが、何者だ?」 成り損ない、気が付けば最近私をこの名で呼ぶモノが多い。 確かにまだ無の極致になってはいないけれどもこれは気持ちの良い名前では無いわ。 まあ良い、この小僧には言っておきたいこともあったのだ。 暇潰しに戯れてやるとしましょう。 私は声を張り上げると返事をする。 「良い質問ね。 でも、その答えは自分で探すこと。 分からなければ自分の記憶にでも聞いてみたらどうかしら」 少しでも何か聞き出そうと思って声を掛けてきたのだろうから無視するのが一番なのだろうが…… 相手が恨まれる理由も知らないというのでは癪にさわる。 私の問い掛けにに小僧は怪訝そうな顔をする。 「記憶? 俺は貴様など覚えてはいない」 この言葉に私は我を忘れてしまった。 あんなことをしておいて! 「お前等のしたことが思い出せないというの? 思い出せ、さすれば復讐は当然よ。 守、そして慧。 お前等のせいで私は……」 いけないいけない、逆上しては相手の思うつぼ。 暇潰しとはいえ時間を掛けすぎればあいつがここに来てしまうのだったわ。 「ハン、俺らに倒された奴の残り滓か。 逆恨みもいいとこだな。 そういう面倒なことはもう仕舞いにしてやる。 俺は亡霊の相手してられるほど暇じゃねえんだ」 そう言うと小僧は無造作に持っていた大鎌を構える。 亡霊?見当外れも良いところね。 でももうこれ位が限界かしら。 「ふふ、逆恨みかどうかは自分の記憶に聞くことね。 もうすぐ私は無の極致よ、そうなればお前など即刻消してやるわ」 「それは無理だな」 「無理かどうかは直に分かるわよ。 次に会う時を楽しみにしているが良いわ」 うん、これなら急がずとも逃げられる。 ・ ・ ・ 「だから、無理なんだよ。 何でそこまで努力して高位になりながらたかが想いを断ち切れねえんだよ。 そんなんだから俺達が」 あえてゆっくりと遠ざかっていると小僧の呟きが聞くともなしに聞こえてきた。 何で、ですって。 もちろん高位になった理由が貴様に復讐するためだからよ それすら分からないの、甘ったれた小僧が! まあ良いわ、どうせすぐに…… |
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