「よう、お前か。
自分の方から来るということは飼われる気になったのか? だけどちっとだけ待ってくれ。 今は仕事が忙しいもんでな」 仕事?朋を襲ったあの神を思い出す。 確かに、苦労しているのか守は前回より疲れてみえる。 あれだけの神なら当然か。 「そうだったな、あいつらに憑いてるんなら知ってて当然か。 というわけで俺はあのしつこいのをどうにかせにゃならんのよ。 それが終わるまではちょっと暇がねえって訳。 それとも、何か用か?」 力が欲しい、彼らを守れるだけの力が。 せめて、守や荒御鋒からの救いを待つだけの時間を得られれば。 守はひとしきり笑った後ではっきりと告げてきた。 「無理だな。 力というのは集めて蓄えて初めて使える。 だが、この集めるという操作をお前はてんで出来ちゃいねえからな。 弱いってことじゃない。 集めるという操作は成長して存在を置き換えていくにつれて徐々に出来るようになっていくもんなんだ。 羽化する前の蝶の幼虫と一緒だ。 羽が無いから這うことは出来ても飛ぶことは出来ない、そんな状態の幼虫に飛び方を教えても飛べる道理が無い。 その代わり飛べるようになれば誰から教わらずとも飛んでいる、そういうものなのさ。 生まれてたかだか数ヶ月の……」 成長、そんなもの私はちっともしていない。 いつまで待てば良いのだ。 「成長してないなんてことはねえぜ。 この前までのお前ならこうやって思考することすら出来なかったはずだ。 漂うだけの無思考のモノ、それがお前だった。 そしてつい最近までは相手を思い浮かべるだけでその場へ移るなんてことも出来なかったはずだ。 それが今ではもう無意識のうちに使っているだろう。 お前は今俺が教えたことを知った。 ならそのうち使えるようになっているさ。 焦らずゆっくりやって行けばいいのさ」 元気になった真紀の顔を思い出す。 少しでも彼らの力になるため今すぐにでも欲しいのだが、仕方ない。 「何お前、真紀が気になるの? さすがは真紀、魅力全開だな。 慧も真紀も神に好かれやすいからなあ。 っとちょっと待てよ。 元気になった真紀? あいつ元に戻ったのか!」 問いに頷く。 隠す必要も無いしどうせ隠せはしないだろう。 守がしばらく考え込む。 「そうか。 そうそう、慧達には護衛が付けられることになった。 もう既に着いているかもしれない。 お前よりはるかに強いから時間稼ぎくらいは出来るだろう。 だから無理して頑張る必要は無いからな。 お前はお前の速度でゆっくり進めば良いんだ」 何か思うところがあるのか異様に優しい。 私はそれを聞きながら朋の元へと戻って行った。 守ではいけないから。 守は優しい。 でも、その優しさは…… 守の思うところ。 守が優しい理由。 分からなくは無い。 育てたいのだきっと。 生まれたばかりの私を自分の手の届くところで、手塩に掛けて、高位の存在へと。 無の極致へと…… だが、その場合私というモノは守にとってどう位置づけられるのであろう? ひょっとしたらそれは、ただ見ているだけの朋達との関係よりも…… |
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