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無限の日


作:夢希
6−1.直樹

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  雨が降っている。
真夜中に大粒の雨、世界はシンとしている。
我の好きな空気だ、狩りに出かけられれば上機嫌だろう。
だが、我が目の前には大鎌を構えた人がいる。
本当に人か?

 ワカラナイ。

どちらにしろ我が面前を塞ぐモノに対する法など一つしか持たぬ。
今宵の狩りの獲物はこやつだ。
「よう成り損ない、大きくなったなあ。
おめでとう、これがお前の待ち望んでいた最終形態だ」
何を言っている?
我を知っているのか?
だが、我の中の声が言う。
『此(コ)は守』
『此は我が憎しみの元凶』
その声に従い我が睨むとそやつごと世界は火の穂(ホノオ)に染まる。
それで終わりだ。
雨が強く打ちつけるがその程度ではどうにもならぬ。
他愛もない。
「でも残念だなあ。
成れの果て、一番成って欲しく無い存在になっちまって。
みさきから聞いたよ、確かに俺が悪かった。
お前の気が済むんだったら腕の一本くらいくれてやっても良かったんだぜ。
まあ、『力』と記憶の代償だ。
もちろんその程度じゃ気がすまないだろうが俺も死ぬわけには行かないもんでね。
でも……
ついにそうも言ってられなくなっちまったんだな」
それは我が炎に焼かれながらも呟き続ける。
何故だか分からぬが少し寂しそうにも見える。
 カマワナイ。
そう思うと同時に我が命(メイ)により鎌鼬鼠(カマイタチ)の群れが襲い、厳つ霊(イカツチ)に乗せた雷獣が更に追い討ちを掛ける。
それらが我の思う通りに暴れまわった後……
「幻なんか俺に効くはずも無いだろうに。
ああそうか、もうその区別もつかないのか」
まだしゃべれるというのか。
此度は土と水より構成せし空中鬼が強き酸の雨となり襲い掛かる。
だが、とどめとばかりに放ちし光球を避けた人は全くの無傷だった。
「まったく、クソ親父の奴。
全て知ってて俺にやらせたな。
そうだよ、俺が原因だよ。
ガキの頃の俺は考えも無しに情に流され、その犠牲を軽く見た。
そうだ、俺が悪い。
それでも倒さなきゃいけねえんだよな。
親父め……
分かってるよ、俺がいけないんだ」
誰に言ってるわけでもない。
『散れ』
人を中心に空間が弾けるがそれを人はかろうじて避ける。
「ちっ、もう考える力もほとんど無いくせに。
力だけあっても難しい構成は使えないはずじゃないのか。
無意識でこれを使ってくるとは。
ハッ、恐れ入るね」
そう言う人からは未だ恐れの色が見えない。
それどころか構えた鎌に力を込めると我に向かってくる。
我に歯向かうと言うか、小癪な。

 人は我の放つ技を消し、無視し、紙一重の差で避けながら向かってくる。
その鎌に不気味なものを感じた我は近づいてくる人を避けようとしたが……

ザッ!ン

先程までの数倍の速さで寄ってきた人の鎌が我を捉え、我が身体は真から二つに裂ける。
即座に元に戻すが、今のは少々効いた。

怒りに我を忘れて放ちし光弾群のうち一つが人をかすめ、人はまた先の位置まで弾き飛ばされる。
近付き過ぎだ。

 双方痛み分けでまた元の位置へ戻る。
ふむ、切られてみて分かった。
どうでも良いことだがこれは純粋な人ではないな。
まあ何モノでも良いわ、どうせ狩りの獲物だ。

「神代と成れの果て、永遠と続いてるらしいな。
今回は元から敵同士だったが仲間として神代の側に付いてた成り損ないもたくさん居たらしいぜ。
散々都合の言いようにこき使っておいて運悪く成れの果てになっちまったらもう救えません、ハイさよならってな。
神代が神から人気無くって当然だよな」

依然意味は分からぬが獲物の言い方が癪に触り雷雨を呼ぶ。
が、それは獲物によって簡単に掻き消される。
「あれ程の光弾雨を使ってきたと思ったら今度はただの雷撃。
分かっちゃいるが、何だってこうも使ってくるランクに差があるかな」

望むなら。

先程の数倍規模での光弾を浴びせるが充分な距離を取られているのか今度は簡単に避けられる。

「はあ、つくづく神代は最低だと思ってきたが……
これで、俺も人のことは言えなくなるか」
獲物はそう言うと鎌をすばやく振った。
一度、二度、三度。
その度に空気の渦が生じそれは強き楔となると我を縛る。
封印か。
「しゃらくさい!」
我が叫ぶと共に封印の力が一旦弱まるが消すまではならなかった。

それを見た人が祈りの呪を始める。
それに合わせる様に風の楔から我に力が注ぎ込まれる。

 血の滾るような感覚。

その力は我の内部へと入り込むと我の『力』を崩していく。
我も必死で抗するが我の中に入り込みし力があざ笑うかの様にその有り様を変えていくために的を定め様が無い。
そうして内側の敵と戦っている間に人は再び鎌を構えると我に近寄ってくる。
一つの結論。 防げない。
そう思うと同時に我が持つ中で最も屈辱的な力を思い出す。
仕方が無い、狩りはいつでも出来る。

 そして、女を思い出す。
誰かは思い出せぬがすぐに浮かんだ女だ。





「な、転移だと!
ここまで封じてもまだ使えるか」
遠のいてゆく叫び。
悔しがらせられたか、ならこれも悪くは無い。
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